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あの時は、どうしたらいいのかわからなくなっていた。
…だが、レディを泣かせたのなら、それは私の恥ずべき失態だ。
<巌窟姫5>
「あ~あ……」
夜。
ルルゥは心底残念そうな顔で溜め息をつきました。
窓から外を見てみたら、ざーーーっという大きな音をたてて、土砂降りの雨が降っていたのです。
『雨が降っている時は、集まらない。ということでいいかな?』
ファントムの言葉を思い出しながら、ルルゥはふくれて、窓を閉めました。
ファントムは容赦ない先生でしたが、それでもルルゥは毎夜の練習の時にファントムに会えるのを楽しみしていました。いつも練習が終わると色々な話をしてくれるし、たまに不思議な魔法を見せてくれることもあったからです。
それに、ファントムはダンスやマナー以外にも、沢山のことを教えてくれたのです。
仕事で手が荒れやすいルルゥの為に、身近に手に入る薬草で作れる、荒れを抑える薬の作り方を教えてくれたこともありました。他の国の歴史や文化のことを教えてくれたり、ファントムが知っている面白い話をしてくれたり、その話が何故語りつがれているのか…ということまで教えてくれたのです。
そんな楽しい時間を思いながら、ルルゥはため息をついて、自分の部屋を見回しました。自分の部屋。と、言っても箒やちりとりが一緒の、屋根裏部屋の一角でした。
せめて少しでもいい部屋にしようと、ルルゥがしっかり掃除しているので、埃はどこにも積もっていません。ルルゥは窓の近くに置いてある本をとると、部屋の隅に座って、読み始めました。死んでしまったルルゥの母親が教育熱心だったお陰で、ルルゥは簡単な文章なら読むことが出来たのです。
ファントムはいつも、
『チャンスを逃さないためには、常にその準備をしていなければいけない』
と言っていて、その為にも本を沢山と読むといい、と言ってこの本をくれたのでした。一緒に古びた簡単な辞書もくれて、それも部屋の隅に置いてありました。そのお陰で、最近やっと『ヤヌシ』が人の名前ではなくて『家主』なのだと気づきました。
ファントムがくれた本は、色々な国のことが書いてある本で、ルルゥは少しづつ、少しづつ、読みすすめていきました。
「あたいも色々な国に行ってみたいなぁ……」
ルルゥは呟きながら、ふと思うことがあって、本を閉じてカバーにある著者の名前を見ました。
「かーる…ふぇ…?」
名前は途中で引っかき傷のようなもので消されていました。
「いーなーこの人。色んな国、見てきたんだもんね」
あたいは、いつになったら色んな所に行けるようになるんだろう?
そんなことを考えていると、ルルゥは少し寂しくなってきました。
昨夜、ファントムに、
「ねぇ、今はあたいの為に毎日来てくれてるけど、ダンスパーティーが終わったらファントムのどうするのさ?」
と訊いたら、ファントムは、
「そうだな…、私は、また旅にでてみようと思っている」
と答えたのです。本当は、ルルゥは「一緒に連れて行って欲しい」と言いたかったのですが、これ以上ファントムに甘えるわけには行かないと思い、黙っていました。今の自分がファントムについていっても、お荷物なることはわかっていたのです。
そんな風にしんみりと考えてから、ルルゥはもう一度、窓の外を見てみました。
「あれ?」
いつの間にか、雨がやんでいました。
ルルゥは少し考えてから、
「ファントムが来てるかもしれない…!!」
外へと駆け出していきました。
* * *
いつもファントムと会っている場所に行くと、
「え…?」
ルルゥは思わず、立ち止まりました。
ファントムが湖を見つめながら静かに佇んでいたのです。服も髪のぐっしょりと濡れて、ほんの少しだけ、肩が震えていました。
「お前に何かあったら、私はどうすればいい…?」
かすかに漏れる嗚咽に、
「ファントム…?」
ルルゥが声をかけると、
「!…レディ?」
ファントムが驚いて振り向きました。
「何故ここに…」
「雨…止んだから……大丈夫?顔色が悪いよ?」
「私は大丈夫だ…」
そう言いながらも、ふらふらしているファントムに、
「ねぇあんた、本当に大丈夫!?」
ルルゥがもう一度訊きました。
ファントムの見えている方の目が、虚ろになっていたのです。
「……大丈夫だ」
ファントムは魂が抜けたような声で言いました。
「レディ、今日は…送ることが…でき…ない」
「…そんなことはいいよ!それより…!!」
「私には…行かなければいけない所がある」
ルルゥが頷くのを見ると、ファントムはふらふらと歩いたかと思うと、空へと舞い上がって行きました。
ルルゥは心配そうに夜の雨空を見上げました。
「…ファントム…」
* * *
雨の夜以来、ルルゥはファントムに会うことが出来なくなってしまいました。
夜、いつもの場所で待っていても、ファントムは来なかったのです。
何日も何日も、ルルゥはあきらめず、毎日、約束の時間になるといつもの場所で待っていました。酷い風邪でもひいたんじゃないかと、ルルゥは心配で仕方がなかったのですが、ファントムの家の場所は知りませんでしたし、この場所以外でファントムに会ったことがなかったので、ルルゥはここで待つ以外にどうすることもできませんでした。
自分の行動できる範囲で、何かファントムに繋がる噂話などがないかと思ったのですが、全くなかったのです。
それでも、ルルゥはファントムがいなくても、しっかりダンスの練習は続けていました。
「…ファントム…」
一人呟いても、ファントムがやってくる気配がありませんでした。
「あたい……」
ルルゥの頬を、一粒の涙が流れていきました。
このままずっと会えないの?と思った瞬間、
「お嬢さん」
「!」
若い男の声に、ルルゥは思わず顔をあげました。
そこにいたのは、ルルゥが会いたくて仕方のない人物ではありませんでした。白の長いローブを着ていて、フードを目深に被っているので、口元しか見えない…と思った瞬間、男はフードを少し上にあげました。ファントムとデザインが左右逆の白い仮面をつけていました。ほんの少しだけ、金髪がフードからでています。
「貴女はひょっとして、ファントムを待っているのではありませんか?」
ファントムで仮面の男に慣れていたとはいえ、ルルゥは突然の見知らぬ仮面男の登場に、硬直してしまい、男の問いに答えることができませんでした。
「…すみません。どうやら驚かせてしまったみたいで。僕はファントムの友人で…。あなたを探していたのです」
「ファントムの友達…?」
ルルゥはしばらく呆然としていましたが、「ファントム」という名前にはっ、として、勢いよく立ち上がりました。
「ファントムは!?ファントムは大丈夫なの?」
ファントムのことを訊きました。
「ええ。少し熱をだして寝ていますけど。大丈夫ですよ」
「良かった…」
「カー…。ファントムは、あなたにそのことを伝えたくて、僕を寄こしたのです。まだ静養する必要がありますから、しばらくこちらには来られないと思いますが…。どうかご心配なく…だから、もう泣かないで。ファントムが言っていましたよ。貴女の笑顔は本当に素敵だと。だから…ね」
男はハンカチでルルゥの涙を拭いてやりました。
「貴女の素敵な笑顔が見られたと、どうかファントムに報告させてください。彼も安心します」
ルルゥは、少し無理して微笑みました。
「ありがとう。しっかり報告しますね」
男のその言葉にルルゥは、
「あんた…ひょっとして、ファントムの『家主』さん?」
訊いてみました。男は少し考えてから、
「まぁ、そういうことになりますね」
答えました。
「ねぇ、あたいを雇って!掃除でもなんでもするから!」
ルルゥは頭を下げて言いました。
『チャンスを絶対に逃してはいけない』というファントムの言葉が、ルルゥの頭の中に響いたのです。
「………」
男は面食らったように、何も言いませんでした。
「なるほど。ファントムが気にいるわけです」
男は手を自分の顎にあてて、しばらく考えました。
「いいでしょう…。ただ、それには二つ、条件があります」
「条件?」
「貴女が今成すべき事を、しっかりやり遂げてください」
「…ダンスパーティーにちゃんとでろ、ってこと?」
「そうです…誰に恥じることのない立派なレディとして、パーティーにでてください」
「…わかった。もう一個は?」
「お許しいただきたい事があります」
「許すこと?」
「おいでチャールズ」
男が言うと、少し離れた木の裏からルルゥの宿敵の、あのデブ猫がでてきました。あいかわらずふてぶてしい瞳をしています。
「ああ~~!!」
ルルゥが指差して叫ぶのを尻目に、猫は男の足元でごろごろと喉をならしながら、頭を男の足首あたりにこすり付けました。しかし、ルルゥの方を一瞬見た猫の目が「何見てんだテメェ」という目だったのを、ルルゥは見逃しませんでした。
「この子は僕の猫なんです…。もしご無礼があったら許してやってください。ファントムが言っていたんです。この子があなたに迷惑をかけたと」
「あ、あんたの猫だったの!?」
「もう悪いことはしませんよね。チャールズ」
男がしゃがんで猫の頭を撫でると、猫はまたしてもごろごろと喉をならしました。ですが、あいかわらず、男の隙を見てルルゥにガンを飛ばすのをやめようとはしません。
「この子はどうもカー……、ファントムが相手だと、じゃれてしまって…。きっと、貴女からファントムの匂いがしたから、じゃれてしまったんだと思います」
「じゃれ…!?」
「じゃれる」という言葉を遙かに超える被害を受けていたルルゥの頭には、猫とその飼い主に言ってやりたい罵詈雑言その他沢山がありましたが、一瞬で職と怒りを天秤にかけて、
「わかった…許す!」
許してやりました。不良猫が勝ち誇ったように笑ったような気がしましたが、ルルゥは気のせいだと思うことにしました。
「よかったですね。チャールズ。貴方は先に帰っていてください」
男が言うと、お役目御免とばかりに、どうやらチャールズというらしい猫はさっさといなくなってしまいました。
「それでは、ボクもおいとましなければ。あまり長いこと外にいてはいけない身なので」
「あ…ちょっと待って!」
「?」
「ファントムに…、あたいのことは心配しなくていいから、ちゃんと風邪治すようにって言っておいて!あたい、一人でもちゃんと頑張れるから!!」
男は微笑んで、
「…わかりました。伝えておきます」
森の闇の中に姿を消しました。
「…あ…」
ルルゥは、ぽかんと口を開けました。
「名前訊くの忘れた…。ファントムがいる所もーーーーーーーーー!!」
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…だが、レディを泣かせたのなら、それは私の恥ずべき失態だ。
<巌窟姫5>
「あ~あ……」
夜。
ルルゥは心底残念そうな顔で溜め息をつきました。
窓から外を見てみたら、ざーーーっという大きな音をたてて、土砂降りの雨が降っていたのです。
『雨が降っている時は、集まらない。ということでいいかな?』
ファントムの言葉を思い出しながら、ルルゥはふくれて、窓を閉めました。
ファントムは容赦ない先生でしたが、それでもルルゥは毎夜の練習の時にファントムに会えるのを楽しみしていました。いつも練習が終わると色々な話をしてくれるし、たまに不思議な魔法を見せてくれることもあったからです。
それに、ファントムはダンスやマナー以外にも、沢山のことを教えてくれたのです。
仕事で手が荒れやすいルルゥの為に、身近に手に入る薬草で作れる、荒れを抑える薬の作り方を教えてくれたこともありました。他の国の歴史や文化のことを教えてくれたり、ファントムが知っている面白い話をしてくれたり、その話が何故語りつがれているのか…ということまで教えてくれたのです。
そんな楽しい時間を思いながら、ルルゥはため息をついて、自分の部屋を見回しました。自分の部屋。と、言っても箒やちりとりが一緒の、屋根裏部屋の一角でした。
せめて少しでもいい部屋にしようと、ルルゥがしっかり掃除しているので、埃はどこにも積もっていません。ルルゥは窓の近くに置いてある本をとると、部屋の隅に座って、読み始めました。死んでしまったルルゥの母親が教育熱心だったお陰で、ルルゥは簡単な文章なら読むことが出来たのです。
ファントムはいつも、
『チャンスを逃さないためには、常にその準備をしていなければいけない』
と言っていて、その為にも本を沢山と読むといい、と言ってこの本をくれたのでした。一緒に古びた簡単な辞書もくれて、それも部屋の隅に置いてありました。そのお陰で、最近やっと『ヤヌシ』が人の名前ではなくて『家主』なのだと気づきました。
ファントムがくれた本は、色々な国のことが書いてある本で、ルルゥは少しづつ、少しづつ、読みすすめていきました。
「あたいも色々な国に行ってみたいなぁ……」
ルルゥは呟きながら、ふと思うことがあって、本を閉じてカバーにある著者の名前を見ました。
「かーる…ふぇ…?」
名前は途中で引っかき傷のようなもので消されていました。
「いーなーこの人。色んな国、見てきたんだもんね」
あたいは、いつになったら色んな所に行けるようになるんだろう?
そんなことを考えていると、ルルゥは少し寂しくなってきました。
昨夜、ファントムに、
「ねぇ、今はあたいの為に毎日来てくれてるけど、ダンスパーティーが終わったらファントムのどうするのさ?」
と訊いたら、ファントムは、
「そうだな…、私は、また旅にでてみようと思っている」
と答えたのです。本当は、ルルゥは「一緒に連れて行って欲しい」と言いたかったのですが、これ以上ファントムに甘えるわけには行かないと思い、黙っていました。今の自分がファントムについていっても、お荷物なることはわかっていたのです。
そんな風にしんみりと考えてから、ルルゥはもう一度、窓の外を見てみました。
「あれ?」
いつの間にか、雨がやんでいました。
ルルゥは少し考えてから、
「ファントムが来てるかもしれない…!!」
外へと駆け出していきました。
* * *
いつもファントムと会っている場所に行くと、
「え…?」
ルルゥは思わず、立ち止まりました。
ファントムが湖を見つめながら静かに佇んでいたのです。服も髪のぐっしょりと濡れて、ほんの少しだけ、肩が震えていました。
「お前に何かあったら、私はどうすればいい…?」
かすかに漏れる嗚咽に、
「ファントム…?」
ルルゥが声をかけると、
「!…レディ?」
ファントムが驚いて振り向きました。
「何故ここに…」
「雨…止んだから……大丈夫?顔色が悪いよ?」
「私は大丈夫だ…」
そう言いながらも、ふらふらしているファントムに、
「ねぇあんた、本当に大丈夫!?」
ルルゥがもう一度訊きました。
ファントムの見えている方の目が、虚ろになっていたのです。
「……大丈夫だ」
ファントムは魂が抜けたような声で言いました。
「レディ、今日は…送ることが…でき…ない」
「…そんなことはいいよ!それより…!!」
「私には…行かなければいけない所がある」
ルルゥが頷くのを見ると、ファントムはふらふらと歩いたかと思うと、空へと舞い上がって行きました。
ルルゥは心配そうに夜の雨空を見上げました。
「…ファントム…」
* * *
雨の夜以来、ルルゥはファントムに会うことが出来なくなってしまいました。
夜、いつもの場所で待っていても、ファントムは来なかったのです。
何日も何日も、ルルゥはあきらめず、毎日、約束の時間になるといつもの場所で待っていました。酷い風邪でもひいたんじゃないかと、ルルゥは心配で仕方がなかったのですが、ファントムの家の場所は知りませんでしたし、この場所以外でファントムに会ったことがなかったので、ルルゥはここで待つ以外にどうすることもできませんでした。
自分の行動できる範囲で、何かファントムに繋がる噂話などがないかと思ったのですが、全くなかったのです。
それでも、ルルゥはファントムがいなくても、しっかりダンスの練習は続けていました。
「…ファントム…」
一人呟いても、ファントムがやってくる気配がありませんでした。
「あたい……」
ルルゥの頬を、一粒の涙が流れていきました。
このままずっと会えないの?と思った瞬間、
「お嬢さん」
「!」
若い男の声に、ルルゥは思わず顔をあげました。
そこにいたのは、ルルゥが会いたくて仕方のない人物ではありませんでした。白の長いローブを着ていて、フードを目深に被っているので、口元しか見えない…と思った瞬間、男はフードを少し上にあげました。ファントムとデザインが左右逆の白い仮面をつけていました。ほんの少しだけ、金髪がフードからでています。
「貴女はひょっとして、ファントムを待っているのではありませんか?」
ファントムで仮面の男に慣れていたとはいえ、ルルゥは突然の見知らぬ仮面男の登場に、硬直してしまい、男の問いに答えることができませんでした。
「…すみません。どうやら驚かせてしまったみたいで。僕はファントムの友人で…。あなたを探していたのです」
「ファントムの友達…?」
ルルゥはしばらく呆然としていましたが、「ファントム」という名前にはっ、として、勢いよく立ち上がりました。
「ファントムは!?ファントムは大丈夫なの?」
ファントムのことを訊きました。
「ええ。少し熱をだして寝ていますけど。大丈夫ですよ」
「良かった…」
「カー…。ファントムは、あなたにそのことを伝えたくて、僕を寄こしたのです。まだ静養する必要がありますから、しばらくこちらには来られないと思いますが…。どうかご心配なく…だから、もう泣かないで。ファントムが言っていましたよ。貴女の笑顔は本当に素敵だと。だから…ね」
男はハンカチでルルゥの涙を拭いてやりました。
「貴女の素敵な笑顔が見られたと、どうかファントムに報告させてください。彼も安心します」
ルルゥは、少し無理して微笑みました。
「ありがとう。しっかり報告しますね」
男のその言葉にルルゥは、
「あんた…ひょっとして、ファントムの『家主』さん?」
訊いてみました。男は少し考えてから、
「まぁ、そういうことになりますね」
答えました。
「ねぇ、あたいを雇って!掃除でもなんでもするから!」
ルルゥは頭を下げて言いました。
『チャンスを絶対に逃してはいけない』というファントムの言葉が、ルルゥの頭の中に響いたのです。
「………」
男は面食らったように、何も言いませんでした。
「なるほど。ファントムが気にいるわけです」
男は手を自分の顎にあてて、しばらく考えました。
「いいでしょう…。ただ、それには二つ、条件があります」
「条件?」
「貴女が今成すべき事を、しっかりやり遂げてください」
「…ダンスパーティーにちゃんとでろ、ってこと?」
「そうです…誰に恥じることのない立派なレディとして、パーティーにでてください」
「…わかった。もう一個は?」
「お許しいただきたい事があります」
「許すこと?」
「おいでチャールズ」
男が言うと、少し離れた木の裏からルルゥの宿敵の、あのデブ猫がでてきました。あいかわらずふてぶてしい瞳をしています。
「ああ~~!!」
ルルゥが指差して叫ぶのを尻目に、猫は男の足元でごろごろと喉をならしながら、頭を男の足首あたりにこすり付けました。しかし、ルルゥの方を一瞬見た猫の目が「何見てんだテメェ」という目だったのを、ルルゥは見逃しませんでした。
「この子は僕の猫なんです…。もしご無礼があったら許してやってください。ファントムが言っていたんです。この子があなたに迷惑をかけたと」
「あ、あんたの猫だったの!?」
「もう悪いことはしませんよね。チャールズ」
男がしゃがんで猫の頭を撫でると、猫はまたしてもごろごろと喉をならしました。ですが、あいかわらず、男の隙を見てルルゥにガンを飛ばすのをやめようとはしません。
「この子はどうもカー……、ファントムが相手だと、じゃれてしまって…。きっと、貴女からファントムの匂いがしたから、じゃれてしまったんだと思います」
「じゃれ…!?」
「じゃれる」という言葉を遙かに超える被害を受けていたルルゥの頭には、猫とその飼い主に言ってやりたい罵詈雑言その他沢山がありましたが、一瞬で職と怒りを天秤にかけて、
「わかった…許す!」
許してやりました。不良猫が勝ち誇ったように笑ったような気がしましたが、ルルゥは気のせいだと思うことにしました。
「よかったですね。チャールズ。貴方は先に帰っていてください」
男が言うと、お役目御免とばかりに、どうやらチャールズというらしい猫はさっさといなくなってしまいました。
「それでは、ボクもおいとましなければ。あまり長いこと外にいてはいけない身なので」
「あ…ちょっと待って!」
「?」
「ファントムに…、あたいのことは心配しなくていいから、ちゃんと風邪治すようにって言っておいて!あたい、一人でもちゃんと頑張れるから!!」
男は微笑んで、
「…わかりました。伝えておきます」
森の闇の中に姿を消しました。
「…あ…」
ルルゥは、ぽかんと口を開けました。
「名前訊くの忘れた…。ファントムがいる所もーーーーーーーーー!!」
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