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~巌窟姫を読む前に~
巌窟姫はルルゥとファントム様が登場する、完全パラレルの童話っちくストーリーです。
巌窟姫という割りに全く巌窟王とは関係ありません。(なんとなくゴツい名前にしたかっただけ)
それでもOKで、本編でルルゥとファントム全然関わってないじゃん!!というツッコみはしない方のみ、
読んでください。
------------------------------------------------
<巌窟姫 1>
むかしむかし、あるところに、小さな女の子がおりました。
名前をルルゥといい、いつも綺麗な紫の髪を二つに分けて結っています。
ルルゥの母親は、ルルゥが今よりずっと小さい時に亡くなり、ルルゥは今、父親が再婚した継母のもとで暮らしています。
継母はルルゥのことがあまり好きでなかったのですが、
ルルゥの父親の手前、最初はルルゥを苛めたりはしませんでした。
ですが、最近ルルゥの父親が亡くなり、継母のルルゥ苛めが始まりました。
継母には実の子どもが3人いて、3人には贅沢ばかりさせていたのですが、ルルゥには汚い服や、まずい食事、辛い仕事ばかりをやらせていました。
そして、ある夜。
ルルゥは鬱蒼とした木々の間を抜けて、湖にたどり着くと、そこでたっぷりと息を吸い込みました。
「あのばばぁ…今度こそ叩きのめしてやる!!」
ルルゥは一人、湖に向かって継母への罵詈雑言を吐いていました。
それほどストレスが溜まっていたのです。
「絶対に許さないんだから…きぃぃぃぃぃっ!ぼっこぼこしてやるぅぅぅぅ!」
ルルゥはそれからしばらく、人前では決して使ってはいけないような言葉を叫びながら、蹴りやパンチの素振りを気が済むまで続けました。
「ふぅ……」
少し落ち着いて、ルルゥは服が汚れるのにも構わず、その場に腰をおろしました。どうせ最初から汚い服です。
湖に、大きな満月が映っていました。
ルルゥはそれを眺めながら、継母とろくでもない兄弟達への復讐計画を練ります。
湖に映った満月の上を、黒い影が二つ、一つは左から、一つは右から、
物凄い勢いでよぎりました。ですがルルゥは計画のことを考えていて、黒い影に全く気づきません。
二つの影は、一度一つになって、一つはどこかに弾け飛んで、もう一つは…、
ぼちゃん。
大きな音をたてて、湖に落ち、巨大な水柱を作りました。
「は?」
その音に、さすがにルルゥは顔を上げました。
水柱。激しく揺れる湖面。
何が起こったのだろうと、呆然と眺めていると、
しばらくしてから、ぷかーっ、と黒い塊が湖に浮かんできました。
「あれ…ひょっとして…人…!?」
そう言うが早いか、ルルゥはコートを脱いで、湖に走りました。
最初は、底は浅かったのですが、途中から足がつかないほど、どんどん深くなっていきます。
ルルゥはそれでも、必死に黒い塊に向かって泳いでいきます。
「捕まえた!」
ルルゥは塊の服の腕の部分を掴むと、それを必死にひっぱりました。
なかなか岸にたどり着くことができず、何度か自分が沈みそうになりましたが、それでもなんとか、岸に引き上げることができました。
黒い塊は、燕尾服を着て、仮面をつけた黒髪の男の人でした。
「ちょっと起きなよ、起きろってば!!」
ぺしぺしと男の頬をひっぱたいても男が起きないのを見て、ルルゥは、あ、と声をあげました。
(水、飲んじゃってるんだ)
ルルゥはなんとかして男をひっくり返して、
「起きろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
男の背中に踵落としをかましました。
男は起きません。
「起きないと死んじゃうんだってば!」
ルルゥは涙目になりながら叫びました。
ルルゥの脳裏に、実の母親の体温が少しずつ失われていく光景が蘇っていたのです。今度は足の裏で思いっきり踏みつけました。
「起きろーーーーーーー!!」
ルルゥがもう一度激しく踏みつけると、一瞬男の体が反り返って、
「ごほっ…ごほっ……」
咳き込んで水を吐き出しました。
「よかった…生き返った…」
ルルゥが安堵したように言いました。
男は何度か咳き込んでから、
「………」
黙り込んでしまいました。
「?」
ルルゥがハテナ顔でいると、
「すまないがレディ」
男はうつ伏せのまま言いました。
「背中からどいて頂けないと起き上がれない」
ルルゥは男の背中に足を乗せたままでした。
「あ、ごめん」
ルルゥは慌ててそう言うと、男の背中から足をどけます。
男は立ち上がると、ルルゥに恭しく頭を下げました。
「このような姿をお目に掛けて情けない…、とにかく助けてくれてありがとう」
「別にいいよ。人が死ぬのが嫌だっただけだし」
ルルゥがそういうと、男は懐から小さな袋をとりだしました。
それを開けると、中にはたくさんの種が入っていました。
男はそれを一粒とりだして、左の手のひらにおくと、右手の人差し指と中指を種に近づけて、目を閉じて呪文のようなものを唱えました。
すると右手の人差指と中指が光って、その光が種へと移っていきました。種がまばゆく輝き始めます。
男が呪文を唱え終わると、黒い種は一瞬にして一輪の青い薔薇へと変わりました。青い薔薇は、花びらがほのかに光っていました。
「すごーい」
ルルゥが感嘆の声をあげると、男はルルゥの視線に合わせるように跪いて、
「レディ、これを受け取ってほしい」
ルルゥに青い薔薇を手渡しました。
ルルゥがそれを受け取ると、ルルゥの小さな手を、男の手が包み込みました。
ありがと、とルルゥが言うと、青い薔薇の花びらが強い輝きを放ちました。
その輝きが治まった時、ルルゥはびしょ濡れだった服と髪の毛が乾いていることに気づきました。
「え?え?どうやったの!?」
「私は魔法使いなのだよ」
「は?」
ルルゥは目を丸くしました。
魔法使いなんて、本の中でしか見たことがありません。
でもたしかに、今、男がやったことは魔法そのものでした。
「まほう…つかい…」
ルルゥが唖然としたように言うと、男は近くに落ちていたルルゥのコートを手にとり、一瞬で乾かしてしまいました。
それをルルゥに渡すと、
「おっと、私も見苦しい状態だったのを忘れていた」
そう言って、自分の髪と服も一瞬にして乾かしてしまったのです。
「ね…ねぇ、なんで魔法使いなんかが湖に浮いてたのさっ!?」
ルルゥが今気づいたように言うと、男は、
「気になるのは当然だな…。レディはそこに座ってほしい」
と言い、どこに?とルルゥが聞こうとして振り返ると、そこには先程までなかった、白い椅子がありました。
(本当に魔法使いなんだ…)
ルルゥが言われた通り椅子に座ると、男ももう一つの椅子に座りました。
「お恥ずかしい話なのだが…」
「うん」
「私は今日、色々とストレスが溜まっていた」
「うんうんわかる。あたいも」
「そこで、空を高速で飛びまわっていたのだ」
「へぇ、やっぱり魔法使いだから空飛べるんだ……腹いせに?」
「まぁ、そんなところだ…そうやって飛んでいたら…」
男はそこで言葉を一瞬切って、月を見上げました。
それからすぐにルルゥに視線を戻して、
「大鷲と正面衝突してしまった」
「…は…?」
「私は地上を見ながら飛んでいたからな…多分あちらもそんなとこだろう。それで失速して湖に落ちた時に水を飲んでしまった…レディが手を差し伸べてくれなければ、私は水死していただろう…レディにはお礼をしないといけないな…そういえば」
男は空を見上げました。
「あちらは大丈夫だったかな?」
すると、その男の言葉を待っていたかのように、夜空を大鷲が舞いました。
「…彼女だ。無事のようだな」
男は大鷲に向かって手を振りました。
大鷲は何回か鳴いて、数回そこを旋回してから去っていきました。
「大鷲さん、なんだって?」
「『お互いの不注意だから仕方ない。次からお互い注意しよう』だそうだ」
「よかったね、許してもらえて」
「ああ…ところで」
「ん?」
「レディはこのような時間に何故ここへ?支障なければ聞かせてもらいたい」
それを聞いて、ルルゥはマシンガンのように喋りはじめました。
話を聞いてくれる人なんて、いつも周りに誰もいなかったのです。
ルルゥは、自分もストレスが溜まっていて、ここに発散しに来たこと、そしてその原因について全て喋りました。
「なるほど……ところで、レディはやられっぱなしなのか?」
「そんなワケないじゃん!」
ルルゥは胸をはって言いました。
「あたいの本当のママは…『幸せになるためには自分で全力で戦いなさい、あなたを不幸にしようとする輩がいたらなぎ倒すのよ』って言ってたもん」
「素晴らしい母親だ」
皮肉ではなく、男は心から関心したようにそう言いました。
「何回も家出だってしたよ!!荷物まとめて、粉屋のおやじに、『住み込みで働かせてくれ』って頼んだこともあったし」
「やるじゃないか」
「でも、粉屋の親父、『いいよ』って言っておいて、ばばぁに裏で連絡つけてたんだ…」
ルルゥは俯いて、
「やっぱ、あたいみたいなチビだとどこいっても働かせてなんてもらえないだよね…」
ため息をつきました。
「だから、少しでもいい生活するために、戦ってやるんだ!」
ぐ、とこぶしをつきあげたルルゥに男は、
「よく言った」
ぱちぱちと拍手しました。
ルルゥは顔を火照らせながら、へへへ、と笑いました。
「そういえば、近いうちに、ダンスパーティーがあるんだって。でもあたいは連れて行ってもらえないんだって」
「行きたいのか?」
「うん。お城の中とか見てみたいし、色んな人が綺麗な格好してるのも見てみたい!…あ」
ルルゥは何かに気づいて、
「さっき、「お礼をしなければ」って言ってたよね?じゃあ、あたいがお城のダンスパーティーに行けるようにして!」
名案!と、男に言いました。
すると男は、
「ご冗談を。ドレスや靴を用意すことはできても、レディ自身を変えることは出来ない」
と、ルルゥの目を真っ直ぐ見てそう言いました。
「あたい…自身…?」
「そうさ。そもそもレディはダンスが踊れるのか?素人がアドリブで踊れるようなものではないのだよ?」
「……うっ……」
「それに、ドレスを着た時の作法を知っているのか?
王宮に出向くようなドレスなら、相当裾に気を使わなければならないはずだが」
「………」
「それに、他にも覚えておかなければないマナーがいくつもある」
そういえば、他の兄弟達は、母親に色々と教えてもらっていたようですが、ルルゥは何も教えてもらったことがありませんでした。
うう~~と、ルルゥは唸って、
「じゃあ、それ全部教えて!」
と男に言いました。
「ほう?」
男は興味深そうに目を細めました。
「全部覚える!次のパーティーには間に合わないかもしれないけど、次の次のパーティーに絶対に行く!」
「その『次の次のパーティー』はいつなんだ?」
「えっと…半年後」
「なるほど…もしレディが本当に厳しいレッスンでもいいと言うのなら…」
男は立ち上がりました。
そしてルルゥに手を差し伸べます。
「お教えしよう…それが貴女の真の望みなら」
ルルゥはその手をとって、立ち上がりました。
「毎夜、ここに来ることが出来るか?」
「大丈夫、あの人たち、あたいがお日様が昇る時に家にいれば、なんにも言わないから…結局、召使が欲しいだけなんだよ」
「そうか…それでは、また明日、同じ時間にここへ」
「うん」
「レディのお宅はどちらの方角かな」
「えっと、あっちの…」
ルルゥが指をさした瞬間、男はルルゥを抱き上げていました。
いわゆる、お姫様だっこというやつです。
男は、ルルゥを抱き上げたまま、高く高く跳躍しました。
わぁ、ルルゥが歓声をあげます。
風を切って、木を飛び越えて、着地するとまた跳躍して…を繰り返して、ルルゥの家の近くに辿りつくと、木陰にルルゥを降ろしました。
「ここでいいのかな?」
「うん、ありがと」
「それではレディ、いい夢を」
男が踵を返すと、
「あ、待って!あんたのこと、あたい、なんて呼べばいいの?」
ルルゥがそう呼び止めました。男はルルゥに背を向けたまま、
「そうだな…では、『ファントム』と」
「『ファントム』…怪人?」
「もし、レディに本名を明かすことがあるとすれば…」
男が振り向いて言いました。
「それは私がレディのものになる時だよ」
ルルゥは男の言っていることがよくわかりませんでしたが、
「じゃあ、あたいも本当の名前言うのやめとこ!」
と笑って言いました。
「その方がいい…。名前とは本来それほど大事なものだ」
ファントムはそう言って、ルルゥに一礼して、
「それではレディ…今宵はこれにて」
夜の闇へと去っていきました。
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巌窟姫はルルゥとファントム様が登場する、完全パラレルの童話っちくストーリーです。
巌窟姫という割りに全く巌窟王とは関係ありません。(なんとなくゴツい名前にしたかっただけ)
それでもOKで、本編でルルゥとファントム全然関わってないじゃん!!というツッコみはしない方のみ、
読んでください。
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<巌窟姫 1>
むかしむかし、あるところに、小さな女の子がおりました。
名前をルルゥといい、いつも綺麗な紫の髪を二つに分けて結っています。
ルルゥの母親は、ルルゥが今よりずっと小さい時に亡くなり、ルルゥは今、父親が再婚した継母のもとで暮らしています。
継母はルルゥのことがあまり好きでなかったのですが、
ルルゥの父親の手前、最初はルルゥを苛めたりはしませんでした。
ですが、最近ルルゥの父親が亡くなり、継母のルルゥ苛めが始まりました。
継母には実の子どもが3人いて、3人には贅沢ばかりさせていたのですが、ルルゥには汚い服や、まずい食事、辛い仕事ばかりをやらせていました。
そして、ある夜。
ルルゥは鬱蒼とした木々の間を抜けて、湖にたどり着くと、そこでたっぷりと息を吸い込みました。
「あのばばぁ…今度こそ叩きのめしてやる!!」
ルルゥは一人、湖に向かって継母への罵詈雑言を吐いていました。
それほどストレスが溜まっていたのです。
「絶対に許さないんだから…きぃぃぃぃぃっ!ぼっこぼこしてやるぅぅぅぅ!」
ルルゥはそれからしばらく、人前では決して使ってはいけないような言葉を叫びながら、蹴りやパンチの素振りを気が済むまで続けました。
「ふぅ……」
少し落ち着いて、ルルゥは服が汚れるのにも構わず、その場に腰をおろしました。どうせ最初から汚い服です。
湖に、大きな満月が映っていました。
ルルゥはそれを眺めながら、継母とろくでもない兄弟達への復讐計画を練ります。
湖に映った満月の上を、黒い影が二つ、一つは左から、一つは右から、
物凄い勢いでよぎりました。ですがルルゥは計画のことを考えていて、黒い影に全く気づきません。
二つの影は、一度一つになって、一つはどこかに弾け飛んで、もう一つは…、
ぼちゃん。
大きな音をたてて、湖に落ち、巨大な水柱を作りました。
「は?」
その音に、さすがにルルゥは顔を上げました。
水柱。激しく揺れる湖面。
何が起こったのだろうと、呆然と眺めていると、
しばらくしてから、ぷかーっ、と黒い塊が湖に浮かんできました。
「あれ…ひょっとして…人…!?」
そう言うが早いか、ルルゥはコートを脱いで、湖に走りました。
最初は、底は浅かったのですが、途中から足がつかないほど、どんどん深くなっていきます。
ルルゥはそれでも、必死に黒い塊に向かって泳いでいきます。
「捕まえた!」
ルルゥは塊の服の腕の部分を掴むと、それを必死にひっぱりました。
なかなか岸にたどり着くことができず、何度か自分が沈みそうになりましたが、それでもなんとか、岸に引き上げることができました。
黒い塊は、燕尾服を着て、仮面をつけた黒髪の男の人でした。
「ちょっと起きなよ、起きろってば!!」
ぺしぺしと男の頬をひっぱたいても男が起きないのを見て、ルルゥは、あ、と声をあげました。
(水、飲んじゃってるんだ)
ルルゥはなんとかして男をひっくり返して、
「起きろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
男の背中に踵落としをかましました。
男は起きません。
「起きないと死んじゃうんだってば!」
ルルゥは涙目になりながら叫びました。
ルルゥの脳裏に、実の母親の体温が少しずつ失われていく光景が蘇っていたのです。今度は足の裏で思いっきり踏みつけました。
「起きろーーーーーーー!!」
ルルゥがもう一度激しく踏みつけると、一瞬男の体が反り返って、
「ごほっ…ごほっ……」
咳き込んで水を吐き出しました。
「よかった…生き返った…」
ルルゥが安堵したように言いました。
男は何度か咳き込んでから、
「………」
黙り込んでしまいました。
「?」
ルルゥがハテナ顔でいると、
「すまないがレディ」
男はうつ伏せのまま言いました。
「背中からどいて頂けないと起き上がれない」
ルルゥは男の背中に足を乗せたままでした。
「あ、ごめん」
ルルゥは慌ててそう言うと、男の背中から足をどけます。
男は立ち上がると、ルルゥに恭しく頭を下げました。
「このような姿をお目に掛けて情けない…、とにかく助けてくれてありがとう」
「別にいいよ。人が死ぬのが嫌だっただけだし」
ルルゥがそういうと、男は懐から小さな袋をとりだしました。
それを開けると、中にはたくさんの種が入っていました。
男はそれを一粒とりだして、左の手のひらにおくと、右手の人差し指と中指を種に近づけて、目を閉じて呪文のようなものを唱えました。
すると右手の人差指と中指が光って、その光が種へと移っていきました。種がまばゆく輝き始めます。
男が呪文を唱え終わると、黒い種は一瞬にして一輪の青い薔薇へと変わりました。青い薔薇は、花びらがほのかに光っていました。
「すごーい」
ルルゥが感嘆の声をあげると、男はルルゥの視線に合わせるように跪いて、
「レディ、これを受け取ってほしい」
ルルゥに青い薔薇を手渡しました。
ルルゥがそれを受け取ると、ルルゥの小さな手を、男の手が包み込みました。
ありがと、とルルゥが言うと、青い薔薇の花びらが強い輝きを放ちました。
その輝きが治まった時、ルルゥはびしょ濡れだった服と髪の毛が乾いていることに気づきました。
「え?え?どうやったの!?」
「私は魔法使いなのだよ」
「は?」
ルルゥは目を丸くしました。
魔法使いなんて、本の中でしか見たことがありません。
でもたしかに、今、男がやったことは魔法そのものでした。
「まほう…つかい…」
ルルゥが唖然としたように言うと、男は近くに落ちていたルルゥのコートを手にとり、一瞬で乾かしてしまいました。
それをルルゥに渡すと、
「おっと、私も見苦しい状態だったのを忘れていた」
そう言って、自分の髪と服も一瞬にして乾かしてしまったのです。
「ね…ねぇ、なんで魔法使いなんかが湖に浮いてたのさっ!?」
ルルゥが今気づいたように言うと、男は、
「気になるのは当然だな…。レディはそこに座ってほしい」
と言い、どこに?とルルゥが聞こうとして振り返ると、そこには先程までなかった、白い椅子がありました。
(本当に魔法使いなんだ…)
ルルゥが言われた通り椅子に座ると、男ももう一つの椅子に座りました。
「お恥ずかしい話なのだが…」
「うん」
「私は今日、色々とストレスが溜まっていた」
「うんうんわかる。あたいも」
「そこで、空を高速で飛びまわっていたのだ」
「へぇ、やっぱり魔法使いだから空飛べるんだ……腹いせに?」
「まぁ、そんなところだ…そうやって飛んでいたら…」
男はそこで言葉を一瞬切って、月を見上げました。
それからすぐにルルゥに視線を戻して、
「大鷲と正面衝突してしまった」
「…は…?」
「私は地上を見ながら飛んでいたからな…多分あちらもそんなとこだろう。それで失速して湖に落ちた時に水を飲んでしまった…レディが手を差し伸べてくれなければ、私は水死していただろう…レディにはお礼をしないといけないな…そういえば」
男は空を見上げました。
「あちらは大丈夫だったかな?」
すると、その男の言葉を待っていたかのように、夜空を大鷲が舞いました。
「…彼女だ。無事のようだな」
男は大鷲に向かって手を振りました。
大鷲は何回か鳴いて、数回そこを旋回してから去っていきました。
「大鷲さん、なんだって?」
「『お互いの不注意だから仕方ない。次からお互い注意しよう』だそうだ」
「よかったね、許してもらえて」
「ああ…ところで」
「ん?」
「レディはこのような時間に何故ここへ?支障なければ聞かせてもらいたい」
それを聞いて、ルルゥはマシンガンのように喋りはじめました。
話を聞いてくれる人なんて、いつも周りに誰もいなかったのです。
ルルゥは、自分もストレスが溜まっていて、ここに発散しに来たこと、そしてその原因について全て喋りました。
「なるほど……ところで、レディはやられっぱなしなのか?」
「そんなワケないじゃん!」
ルルゥは胸をはって言いました。
「あたいの本当のママは…『幸せになるためには自分で全力で戦いなさい、あなたを不幸にしようとする輩がいたらなぎ倒すのよ』って言ってたもん」
「素晴らしい母親だ」
皮肉ではなく、男は心から関心したようにそう言いました。
「何回も家出だってしたよ!!荷物まとめて、粉屋のおやじに、『住み込みで働かせてくれ』って頼んだこともあったし」
「やるじゃないか」
「でも、粉屋の親父、『いいよ』って言っておいて、ばばぁに裏で連絡つけてたんだ…」
ルルゥは俯いて、
「やっぱ、あたいみたいなチビだとどこいっても働かせてなんてもらえないだよね…」
ため息をつきました。
「だから、少しでもいい生活するために、戦ってやるんだ!」
ぐ、とこぶしをつきあげたルルゥに男は、
「よく言った」
ぱちぱちと拍手しました。
ルルゥは顔を火照らせながら、へへへ、と笑いました。
「そういえば、近いうちに、ダンスパーティーがあるんだって。でもあたいは連れて行ってもらえないんだって」
「行きたいのか?」
「うん。お城の中とか見てみたいし、色んな人が綺麗な格好してるのも見てみたい!…あ」
ルルゥは何かに気づいて、
「さっき、「お礼をしなければ」って言ってたよね?じゃあ、あたいがお城のダンスパーティーに行けるようにして!」
名案!と、男に言いました。
すると男は、
「ご冗談を。ドレスや靴を用意すことはできても、レディ自身を変えることは出来ない」
と、ルルゥの目を真っ直ぐ見てそう言いました。
「あたい…自身…?」
「そうさ。そもそもレディはダンスが踊れるのか?素人がアドリブで踊れるようなものではないのだよ?」
「……うっ……」
「それに、ドレスを着た時の作法を知っているのか?
王宮に出向くようなドレスなら、相当裾に気を使わなければならないはずだが」
「………」
「それに、他にも覚えておかなければないマナーがいくつもある」
そういえば、他の兄弟達は、母親に色々と教えてもらっていたようですが、ルルゥは何も教えてもらったことがありませんでした。
うう~~と、ルルゥは唸って、
「じゃあ、それ全部教えて!」
と男に言いました。
「ほう?」
男は興味深そうに目を細めました。
「全部覚える!次のパーティーには間に合わないかもしれないけど、次の次のパーティーに絶対に行く!」
「その『次の次のパーティー』はいつなんだ?」
「えっと…半年後」
「なるほど…もしレディが本当に厳しいレッスンでもいいと言うのなら…」
男は立ち上がりました。
そしてルルゥに手を差し伸べます。
「お教えしよう…それが貴女の真の望みなら」
ルルゥはその手をとって、立ち上がりました。
「毎夜、ここに来ることが出来るか?」
「大丈夫、あの人たち、あたいがお日様が昇る時に家にいれば、なんにも言わないから…結局、召使が欲しいだけなんだよ」
「そうか…それでは、また明日、同じ時間にここへ」
「うん」
「レディのお宅はどちらの方角かな」
「えっと、あっちの…」
ルルゥが指をさした瞬間、男はルルゥを抱き上げていました。
いわゆる、お姫様だっこというやつです。
男は、ルルゥを抱き上げたまま、高く高く跳躍しました。
わぁ、ルルゥが歓声をあげます。
風を切って、木を飛び越えて、着地するとまた跳躍して…を繰り返して、ルルゥの家の近くに辿りつくと、木陰にルルゥを降ろしました。
「ここでいいのかな?」
「うん、ありがと」
「それではレディ、いい夢を」
男が踵を返すと、
「あ、待って!あんたのこと、あたい、なんて呼べばいいの?」
ルルゥがそう呼び止めました。男はルルゥに背を向けたまま、
「そうだな…では、『ファントム』と」
「『ファントム』…怪人?」
「もし、レディに本名を明かすことがあるとすれば…」
男が振り向いて言いました。
「それは私がレディのものになる時だよ」
ルルゥは男の言っていることがよくわかりませんでしたが、
「じゃあ、あたいも本当の名前言うのやめとこ!」
と笑って言いました。
「その方がいい…。名前とは本来それほど大事なものだ」
ファントムはそう言って、ルルゥに一礼して、
「それではレディ…今宵はこれにて」
夜の闇へと去っていきました。
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