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大切な、人。





<巌窟姫 2>






 勝負。
 ルルゥは「敵」と対峙すると、相手とじわじわと距離を縮めようとしました。相手はゆっくりと後退して、こちらの距離をとります。

 そうやっていくうちに徐々に距離が縮まって…、
 ルルゥは相手に向かって跳びました。
 相手を捉えそうになりましたが、相手はすんでのところで避けて、
「ぐぇ」
 ルルゥは顔から地面に落ちて、鈍い声をあげました。「敵」は、

「にゃ~~」
 と勝利宣言をしながら、一気に木の枝の上に登って、口にくわえていたパンを食べ始めました。黒いデブ猫でした。かなり意地の悪そうな目つきに、艶々した黒い毛。全体的に毛は短めなのですが、尻尾の毛だけはゴージャスな長さを誇っています。
 左の前足には鈴が結び付けられていて、その猫が、動くたびにりんりんと音をたてました。

「ひどいよ…そんなに太るまでおいしいもの食べてるくせに、あたいの食べ物とらなくたって…」

 猫が食べていたのは、中に甘いクリームが入っているパンでした。
 本来ならルルゥは食べることなどできないものでしたが、継母が落としたものを、なんとかもらうことに成功したのです。
「甘いものなんて滅多に食べられないのに~、降りて来~い!デブ猫!」
 ルルゥが怒っているのを尻目に、デブ猫は口の周りにたくさんのクリームをつけてパンを頬張り、食べ終わって「にゃ~」と低く鳴きました。
そのルルゥを見下したような瞳に、

「きぃぃぃぃぃっ!!」
 ルルゥは地団太を踏みました。
 猫は上品に木から飛び降りると、「やれるものならやってみろ」とばかりに、ルルゥに挑戦的な目を向けました。
 ルルゥも負けじと睨み返しましたが、

「もういいよ…、お腹の中に入っちゃったのは取り戻せないし…」
 ため息をつきながらその場で座り込んでしまいました。
 猫は意外そうな顔をすると、座り込んだルルゥのすぐ前にやってきました。りんりん、と鈴が鳴るのを聞いて、ルルゥは、

「いいなぁ…そんなに太って、毛も綺麗なんだもん。ご主人様においしいもの、沢山もらってるんだね」

 ルルゥが触ろうすると、猫はさっ、と身をひいて、やっぱり意地悪そうな目をルルゥに向けました。




 数時間後。
「やぁ、レディ。お越しいただきありがとう。…疲れているようだが、大丈夫か?」
 ファントムは森の湖の側で、椅子を二つと丸いテーブルをだして待っていました。テーブルの上には、大きな箱が乗っていました。
「うん、大丈夫。ちょっとお腹空いてるけど…」
「それは丁度よかった」
「へ?」
「実はいくつか持参したものがあってね…」
 そういってファントムがテーブルの上にあった箱をあけると、そこには4つ、ケーキが入っていました。
「うわぁぁ、すごい。昔ママが見せてくれた本で見たことがあるーー!」
 ルルゥは感動したように、ケーキを見つめました。
「全て、君のものだ」
「ええっ、本当!?」
 目を輝かせたルルゥに、
「ただし、条件があるが」
「…条件…」
 ルルゥは深刻そうにな顔をしました。
「ははっ!そんなに身構えることはない。ただ、美しく食べればいいだけのことだ」
 ファントムは立ち上がって、お皿の上にケーキとフォークをのせて、ルルゥの前にだしました。ショートケーキでした。

「いいかな、レディ。ケーキは左側から、フォークで切って食べる。このように三角のケーキがでてきたら、尖っている側から食べるんだ。三角のケーキは尖っている側を左側にしてゲストにだすのが原則だが、もし違う方向を向いているものがだされたら、左側からでなくてもいい」
「う、うん」

 特に難しいことでもないのですが、ルルゥはケーキを食べたことがなかったので、少し緊張していました。そのまま固まっていると、ファントムがルルゥの肩に手を置いて、
「召し上がれ」
 と優しく言いました。
 ルルゥは緊張した面持ちで、ケーキの左側をゆっくりと切りました。
 そして口に運び、ゆっくりとフォークを引き抜き…
(ん~~~)
 ルルゥはお皿にフォークを置いて、自分の頬を手で包みました。
 その幸せそうな顔に、ファントムは密かに微笑んでから、
「喜んでもらえてなにより」
 自分の椅子に座りました。
 いつの間にか、ルルゥのケーキの右側には、コーヒーがおいてありました。
「えっ…とこれは、なにか守らなきゃいけないこととかあるの?」
 ファントムは少し考えてから、
「いくつかあるが…、今日は一つだけにしておこう…飲み終わった時に教える」
 ルルゥは安心したように、カップをに口をつけました。
「ところでレディ…」
「にっがーーーーーーーい!!」

 ファントムが言おうとした時、コーヒーを先に飲んでしまったルルゥが叫びました。口の中の苦さを消すために、ケーキを急いで切って口に放り込みます。
「レディは砂糖をいれた方がいいと言おうとしたのだが…遅かったようだ…」
「苦かった……」
 ファントムはカップの横に置いてあったミルクと砂糖のことを説明しました。それを聞いたルルゥが早速山ほど砂糖を入れたので、ファントムはぎょっとしましたが、飲んだルルゥが満足そうな顔をしていたので、何も言いませんでした。

「ところで」
 ファントムが改まって言ったので、フォークを置いたルルゥに、ファントムは「食べながらでいい」と言いました。
「レディはこの国の王族についてどれほどのことを知っている?どの程度の知識があるのか、知りたい」
 王宮にいくのだからな。と、ファントムは付け加えました。
「王族…?うーんと……」
 ルルゥは記憶の片隅から、継母が王様について言っていたことを引っ張りだしました。
「えっと…、2年前に王子様が王様になって…えっと…あんまりよくわかんないけど…」
 他に何かあったかな。とルルゥは他の記憶を探しました。
「…今の王様が、すっごく若いって聞いたよ!…あとは…わかんない」
「わかった…では明日は王族のことについて話そう」
「え、今日は?」
「今日はお互いについて話そう…自己紹介といったところかな?」
 ルルゥは少し不思議そうな顔をしてから、
「あ、そっか。あんまり知らないもんね。お互いのこと」
「何か聞きたいことがあるかな?」
「なんでもいいの?」
「ああ」

 うーん、とルルゥは考えました。
「じゃあ、昨日はなんでストレス溜まってたの?」
「…さすがレディ。いきなり痛いところを突いてくれる」
 苦笑するファントムに、ルルゥは、
「…話したくないなら、別にいいけど」
 限りなく白に近くなったコーヒーを飲みながら言いました。
「話し始めると愚痴になるのでね…レディがそれで構わないなら、話してもいい」
 ルルゥは頷きました。
「家主と口論になってね…」
「こうろん…あ、喧嘩?」
「ああ。散々嫌味を言うものだから…怒鳴ってでてきた」
「ええっ、ファントム、怒鳴ったりするの?」
「…レディに怒鳴ったりはしないがね」
「なんか想像できないなー。怒鳴ってるとこ…」
 ルルゥは頑張って想像しようとしました。
 しばらく頭を抱えていましたが、やがて、降参、と言って諦めました。
「…やっぱ、想像できないや…。ね、その「ヤヌシ」さんって、友達?」
 ルルゥは、『ヤヌシ』を人の名前だと思ったようです。

「とも…だ……」
 ファントムは少しの間固まってから、
「…くされ縁だ」
 自分を納得させるように言いました。
「くされ縁?でも、ファントムが怒鳴っちゃうぐらいなんだもん。相当酷い人なんだね」
「いや…」
 ファントムは言葉を選びながら、慎重に言いました。
「奴は今、辛い状況にいるのでね……。私もわかっていてつい怒鳴ってしまったのだが…」
 後半、ルルゥではなく自分に言い始めたファントムを見て、
「なんだ、やっぱり友達なんじゃん!本気で喧嘩できる友達がいるのはいいことよ、ってママが言ってた。…まぁ、あたい今友達いないから関係ないけどさっ。いるだけいいと思いなよー」
 笑って、ルルゥは言いました。
「…そうだな」
 ファントムが一瞬だけ、どこか悲しげな顔をしたことに、ルルゥは気がつきませんでした。
 それから、二人はお互いのことについて、色んなことを話しました。


 ファントムはその後、ルルゥを家まで送ってから、
「そうだ、レディ」
 思い出しように言いました。
「雨が降っている時は、集まらない、ということでいいかな?」
「うん、濡れたくないし」
「それでは…、また明日、雨が降らないことを祈って…」




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