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この広い世界の中で、居場所を作れるか作れないか。
それは、自分次第だ。
<巌窟姫 3>
ファントムと出会ってから二週間程。
ルルゥは毎夜毎夜、ファントムに礼儀作法などを教えてもらっていたのですが……。
「うわぁぁ……」
この日は、夜空を飛ぶファントムの腕の中、ルルゥは眼下に広がる夜の街を見て、感嘆の声をあげていました。
ルルゥはとても小さかったので、いつもは他の人を見上げてばかりで、人が自分の下に、こんなに小さく見えたことなど、人生で一度もなかったのです。ルルゥは、自分の家の周りと近くの森、湖という小さな世界しか見たことがありませんでした。
視界いっぱいに街が広がって、ルルゥはそれを出来る限り見ようと、目をたくさん動かしました。殆どの家は明かりを消しているのですが、ぽつりぽつりと、明かりがもれている家が見えます。馬に色々な商品を載せて、店に横付けしているところ見えたり、おかしな色で光っている店も見えたりしました。
おいしいお店があるのかな、あそこでは何を売ってるんだろう、あの家変な形…。
ルルゥは色々な想像を膨らませながら街を見てから、今度は空を見上げました。
見上げると、いつもより星が近くに見えます。
大して場所も変わらない筈なのに、昨日見た星空よりも、何故だか綺麗なような気がしました。二人を歓迎するように、瞬いているようです。
ルルゥははしゃぎながら、あちこちを見回します。ファントムはそんなルルゥを見て、仮面の下で密かに微笑みながらも、ルルゥが落ちないように、しっかりと抱き寄せていました。
目を動かしすぎて、ルルゥが目の周りに疲れを覚え始めた頃、
「レディ、そろそろだ」
ファントムに促されて、ルルゥが前方を見ると、天に向かって聳える王宮が見えました。
「…本当に行くのー?」
「ああ、尖塔の上に平らになっている場所がある。誰にも見つからないし、二人なら十分な広さだ。心配しなくていい」
そう言ってファントムは少し高度を上げてから、尖塔の上の平らになっている部分に、ルルゥを降ろしました。
ルルゥは息を呑んで、周りを見渡します。
「街って、こんなに広かったんだ…」
街が広がる先には、城壁があって、そこから一本の大きな道が伸びています。その周りは夜で真っ黒になっていて、何がどうなっているのか、よく見えませんでした。どうやら月では照らしきれないようです。
「世界は、もっと広い」
うわぁ…と言いながら、周りを見回すルルゥを、ファントムは満足そうな笑みを浮かべて、見ていました。心地よいひんやりとした風が、二人の髪を揺らします。
「ファントムは、よく旅にでるんだよね」
ルルゥは、昨夜ファントムから聞いた話を思い出しながら、言いました。ファントムは(場所は言えないらしいのですが)魔法の道具や薬品を置いてある、『拠点』に数週間ほど立ち寄る以外は、一年の殆どを、世界中を旅して過ごしている、とルルゥは聞いたのです。
「ああ。拠点に数週間いる以外は…、殆ど旅の毎日だ」
ファントムは遠くを見ながら言いました。
「いいなぁ…、色んなもの、たくさん見られて」
色んなお店とか知ってるんだろな、とルルゥは思いました。
「レディ…月を見てほしい」
「ん?月?」
言われるままにルルゥが月を見ると、地平線の向こうに沈みかけているところでした。
「あの地平線の向こうに、たくさんの国がある。言葉も違えば、肌の色も、考え方も全く違う人間が住んでいる」
「すごい…チヘイセンまでだって、どれぐらいかかるかわからないのに」
本当に、広いんだね。そう付け加えて、ルルゥはしゃがんで、地平線をじぃ、と見つめました。
「レディ」
「ん?」
ルルゥはファントムを見上げました。
「今日は…、『世界』がどれだけ広いのかを、見てほしかった」
「うん!びっくりした…!こんなに広いなんて…あたいも、旅にでてみたいなぁ…」
ルルゥは、ファントムを羨ましそうに見ました。
「…レディなら、可能だ」
そうかな、と訝しげにルルゥは言いました。
「レディ、君なら……」
世界中のどこだって、自分の居場所にできる。
ファントムはルルゥに目線に合わせるように腰を落としました。
「レディがこれから、何を望むかはわからないが」
ファントムはルルゥの目を真っ直ぐ見ました。
「…どんな小さなチャンスでも、絶対に逃さないでほしい」
「うん、わかった!しがみつくよ!」
それでいい、とファントムは言いました。
「でも、魔法使いってやっぱりいいなぁ。やりたいこと、全部できるし!」
「……いや」
ファントムはほんの少し、目を伏せました。
「そうとは…限らない」
「そーなの?」
「私は…一番ほしいものを…『諦めている』」
…『諦めている』って変な言い方だなぁ、と思いながら、ルルゥは、
「魔法使いも、色々大変なんだねぇ」
しみじみと言いました。
「…ああ。できることが多いのは確かだが。こうしてレディをここにお連れすることも出来た」
「うん!ありがと!」
「さて、レディ。そろそろ戻らなければ」
りょーかい!とルルゥは言ってから、
「ねぇ、なんでファントムは、あたいに『世界が広い』っていうのを見せたかったの?」
ファントムに訊きました。
「私はレディに命を救われた…。だから、それに見合う恩返しがしたい」
「??」
よく理解出来ていないらしいルルゥを、ファントムはひょい、と抱き上げました。
「…そのうち、わかる。いつになるかは君次第だが…」
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それは、自分次第だ。
<巌窟姫 3>
ファントムと出会ってから二週間程。
ルルゥは毎夜毎夜、ファントムに礼儀作法などを教えてもらっていたのですが……。
「うわぁぁ……」
この日は、夜空を飛ぶファントムの腕の中、ルルゥは眼下に広がる夜の街を見て、感嘆の声をあげていました。
ルルゥはとても小さかったので、いつもは他の人を見上げてばかりで、人が自分の下に、こんなに小さく見えたことなど、人生で一度もなかったのです。ルルゥは、自分の家の周りと近くの森、湖という小さな世界しか見たことがありませんでした。
視界いっぱいに街が広がって、ルルゥはそれを出来る限り見ようと、目をたくさん動かしました。殆どの家は明かりを消しているのですが、ぽつりぽつりと、明かりがもれている家が見えます。馬に色々な商品を載せて、店に横付けしているところ見えたり、おかしな色で光っている店も見えたりしました。
おいしいお店があるのかな、あそこでは何を売ってるんだろう、あの家変な形…。
ルルゥは色々な想像を膨らませながら街を見てから、今度は空を見上げました。
見上げると、いつもより星が近くに見えます。
大して場所も変わらない筈なのに、昨日見た星空よりも、何故だか綺麗なような気がしました。二人を歓迎するように、瞬いているようです。
ルルゥははしゃぎながら、あちこちを見回します。ファントムはそんなルルゥを見て、仮面の下で密かに微笑みながらも、ルルゥが落ちないように、しっかりと抱き寄せていました。
目を動かしすぎて、ルルゥが目の周りに疲れを覚え始めた頃、
「レディ、そろそろだ」
ファントムに促されて、ルルゥが前方を見ると、天に向かって聳える王宮が見えました。
「…本当に行くのー?」
「ああ、尖塔の上に平らになっている場所がある。誰にも見つからないし、二人なら十分な広さだ。心配しなくていい」
そう言ってファントムは少し高度を上げてから、尖塔の上の平らになっている部分に、ルルゥを降ろしました。
ルルゥは息を呑んで、周りを見渡します。
「街って、こんなに広かったんだ…」
街が広がる先には、城壁があって、そこから一本の大きな道が伸びています。その周りは夜で真っ黒になっていて、何がどうなっているのか、よく見えませんでした。どうやら月では照らしきれないようです。
「世界は、もっと広い」
うわぁ…と言いながら、周りを見回すルルゥを、ファントムは満足そうな笑みを浮かべて、見ていました。心地よいひんやりとした風が、二人の髪を揺らします。
「ファントムは、よく旅にでるんだよね」
ルルゥは、昨夜ファントムから聞いた話を思い出しながら、言いました。ファントムは(場所は言えないらしいのですが)魔法の道具や薬品を置いてある、『拠点』に数週間ほど立ち寄る以外は、一年の殆どを、世界中を旅して過ごしている、とルルゥは聞いたのです。
「ああ。拠点に数週間いる以外は…、殆ど旅の毎日だ」
ファントムは遠くを見ながら言いました。
「いいなぁ…、色んなもの、たくさん見られて」
色んなお店とか知ってるんだろな、とルルゥは思いました。
「レディ…月を見てほしい」
「ん?月?」
言われるままにルルゥが月を見ると、地平線の向こうに沈みかけているところでした。
「あの地平線の向こうに、たくさんの国がある。言葉も違えば、肌の色も、考え方も全く違う人間が住んでいる」
「すごい…チヘイセンまでだって、どれぐらいかかるかわからないのに」
本当に、広いんだね。そう付け加えて、ルルゥはしゃがんで、地平線をじぃ、と見つめました。
「レディ」
「ん?」
ルルゥはファントムを見上げました。
「今日は…、『世界』がどれだけ広いのかを、見てほしかった」
「うん!びっくりした…!こんなに広いなんて…あたいも、旅にでてみたいなぁ…」
ルルゥは、ファントムを羨ましそうに見ました。
「…レディなら、可能だ」
そうかな、と訝しげにルルゥは言いました。
「レディ、君なら……」
世界中のどこだって、自分の居場所にできる。
ファントムはルルゥに目線に合わせるように腰を落としました。
「レディがこれから、何を望むかはわからないが」
ファントムはルルゥの目を真っ直ぐ見ました。
「…どんな小さなチャンスでも、絶対に逃さないでほしい」
「うん、わかった!しがみつくよ!」
それでいい、とファントムは言いました。
「でも、魔法使いってやっぱりいいなぁ。やりたいこと、全部できるし!」
「……いや」
ファントムはほんの少し、目を伏せました。
「そうとは…限らない」
「そーなの?」
「私は…一番ほしいものを…『諦めている』」
…『諦めている』って変な言い方だなぁ、と思いながら、ルルゥは、
「魔法使いも、色々大変なんだねぇ」
しみじみと言いました。
「…ああ。できることが多いのは確かだが。こうしてレディをここにお連れすることも出来た」
「うん!ありがと!」
「さて、レディ。そろそろ戻らなければ」
りょーかい!とルルゥは言ってから、
「ねぇ、なんでファントムは、あたいに『世界が広い』っていうのを見せたかったの?」
ファントムに訊きました。
「私はレディに命を救われた…。だから、それに見合う恩返しがしたい」
「??」
よく理解出来ていないらしいルルゥを、ファントムはひょい、と抱き上げました。
「…そのうち、わかる。いつになるかは君次第だが…」
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