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ソロカルSS。短いです。右腕を失った後のカール。
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軽やかに舞えば舞うほどに、それは痛みを見せつける。
風の中の青
嵐が何日も続いた。雹をともなう激しい嵐だったから、都市部は大変なことになっているだろう。そんなことを考えながら、ソロモンは嵐に全てを洗い流されて遮るもののない青空を見上げた。
本当に、青以外に何もない。
――全く、誰かさんの心と連動してるんじゃないんですか?
内心苦笑しながら左を向くと、少し離れたところでカールが、右腕の付け根あたりを左手で押さえながら座っている。二人がいるのは「動物園」の中にある建物の屋根の上。周りにはひたすら緑が広がって、その香りを冷たい風が運んできていた。
カールは無表情で、特に何かに目をとめているという様子もなく、考え事をしているようだった。片手では結ぶことができないのだろう、いつもなら結い上げている長い黒髪には、今は何もつけられていなかった。
昨日まで荒れに荒れていたことを考えると、よくここまで落ち着いたものだとソロモンは思った。
小夜に腕を切り落とされたのが一週間程前。
小夜についての報告を望んだ長兄のために、カールを英国に連れて行く手はずだったのが、カールのあまりの荒みぶりに、このまま長兄に会わせるのはまずいと、一度フランスに立ち寄ることにしたのだ。そして目指したのが動物園。
フランスに入国する時、嵐がやってきていた。
カールは、昼間は主人のディーヴァのように破壊活動にいそしみ、夜になれば「動物園」を抜け出して、都市部へと向かった。何をしに行ったのかは言うまでもない。
大勢の人間が血を抜かれて死んだとなれば、騒ぎになることは目に見えていたし、それは長兄の望むところではない。わかっていたけれど、ソロモンはカールを止めなかった。
……否、止められなかった。
最近、どうもカールに甘くなっているような気がする。
そう思いながらカールを見ていると、カールはバランスをとりながら、その場で立ちあがった。左腕を腰にやって、遠くを眺める。
ふわり、と青色がなびいた。
腕の通されていない右袖が、風に舞う。かつてそこにあった重みを無視して、残酷に軽く。空を背景にして鮮やかな青が翻るその様は美しいけれど、そう感じるのは腕を持っているものの傲慢に思えた。
―――だから、自分はカールを止められなかったのだろう。
歩けば後ろになびき、風が吹けば無抵抗に翻るその軽さ。
立ち止まれば、腕の形をとらずに垂れ下がる、非日常。
風に靡く青を目にするたびに、自分ではどうしてやることもできない感情をそこから感じ取って、カールのやりたいようにやらせてしまった。
それで、カールの気持ちが少しでも晴れるなら、と。
「…ソロモン」
「はい?」
「…すまない」
こちらを見ずに、前方に広がる緑を見たまま、カールはぶっきらぼうに言った。ソロモンは微笑んで答える。
「…兄さんには、一緒に怒られましょうね」
カールはこちらを振り向いた。
その動きに合わせて、右袖が風の中で翻る。
ひさしぶりに、カールの笑顔を見た気がした。
END
見たことはないんですが、「存在の耐えられない軽さ」という映画のタイトルが、なかなかに印象に残っています。
3時間とちょっとあるらしいのですが…、
時間ができたら見てみたいです。
戻る
2006/06/22
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軽やかに舞えば舞うほどに、それは痛みを見せつける。
風の中の青
嵐が何日も続いた。雹をともなう激しい嵐だったから、都市部は大変なことになっているだろう。そんなことを考えながら、ソロモンは嵐に全てを洗い流されて遮るもののない青空を見上げた。
本当に、青以外に何もない。
――全く、誰かさんの心と連動してるんじゃないんですか?
内心苦笑しながら左を向くと、少し離れたところでカールが、右腕の付け根あたりを左手で押さえながら座っている。二人がいるのは「動物園」の中にある建物の屋根の上。周りにはひたすら緑が広がって、その香りを冷たい風が運んできていた。
カールは無表情で、特に何かに目をとめているという様子もなく、考え事をしているようだった。片手では結ぶことができないのだろう、いつもなら結い上げている長い黒髪には、今は何もつけられていなかった。
昨日まで荒れに荒れていたことを考えると、よくここまで落ち着いたものだとソロモンは思った。
小夜に腕を切り落とされたのが一週間程前。
小夜についての報告を望んだ長兄のために、カールを英国に連れて行く手はずだったのが、カールのあまりの荒みぶりに、このまま長兄に会わせるのはまずいと、一度フランスに立ち寄ることにしたのだ。そして目指したのが動物園。
フランスに入国する時、嵐がやってきていた。
カールは、昼間は主人のディーヴァのように破壊活動にいそしみ、夜になれば「動物園」を抜け出して、都市部へと向かった。何をしに行ったのかは言うまでもない。
大勢の人間が血を抜かれて死んだとなれば、騒ぎになることは目に見えていたし、それは長兄の望むところではない。わかっていたけれど、ソロモンはカールを止めなかった。
……否、止められなかった。
最近、どうもカールに甘くなっているような気がする。
そう思いながらカールを見ていると、カールはバランスをとりながら、その場で立ちあがった。左腕を腰にやって、遠くを眺める。
ふわり、と青色がなびいた。
腕の通されていない右袖が、風に舞う。かつてそこにあった重みを無視して、残酷に軽く。空を背景にして鮮やかな青が翻るその様は美しいけれど、そう感じるのは腕を持っているものの傲慢に思えた。
―――だから、自分はカールを止められなかったのだろう。
歩けば後ろになびき、風が吹けば無抵抗に翻るその軽さ。
立ち止まれば、腕の形をとらずに垂れ下がる、非日常。
風に靡く青を目にするたびに、自分ではどうしてやることもできない感情をそこから感じ取って、カールのやりたいようにやらせてしまった。
それで、カールの気持ちが少しでも晴れるなら、と。
「…ソロモン」
「はい?」
「…すまない」
こちらを見ずに、前方に広がる緑を見たまま、カールはぶっきらぼうに言った。ソロモンは微笑んで答える。
「…兄さんには、一緒に怒られましょうね」
カールはこちらを振り向いた。
その動きに合わせて、右袖が風の中で翻る。
ひさしぶりに、カールの笑顔を見た気がした。
END
見たことはないんですが、「存在の耐えられない軽さ」という映画のタイトルが、なかなかに印象に残っています。
3時間とちょっとあるらしいのですが…、
時間ができたら見てみたいです。
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2006/06/22