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ソロカルSS。タイトル通り、痛いSSなので、苦手な方はご注意を。
時代は1940年代ぐらい。
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ただ、どうしようもなく、会いたかったのだ。会うこと自体が禁忌だったとしても。
赤に染まる棘
会 い た い
そのメッセージを他の暗号文の中に巧みに紛れさせて、某国軍にいる「彼」に電報を打ったのが数日前。
遠くに雷鳴が聞こえる夜。大きな翼を持つ生き物が、ひとけの無い森の中に着地した。その数分後、軍服の上にロングコートを着た人影が、有刺鉄線の張り巡らされた臨時の軍事基地へと向かっていた。
特徴の無い東洋系の顔を持つ男だ。男は有刺鉄線の前で止まると、何かを探すようにあたりを見回した。右、左、と見回す内に、男の顔が一瞬にして全く別のものへと変化する。この地域では滅多に見ることのできない、見事な金髪碧眼。その姿を知っている者は、彼をソロモンと呼ぶ。
ソロモンは自分の姿形がこの国では目立つ事この上ない為、目的地に着く直前までは姿を変えていたのだ。が、やはりこれから会う人物とは、自分本来の姿で会いたかった。
胴の太い複葉機――この国の主力機であるポリカルポフⅠ-16を鉄線越しに見上げながら、異国にいるということを再認識する。(自分の所属する軍ではポリカルポフを見ることはない)本来、自分は今この国にいてはいけないのだ。某国軍の基地内にいなくてはならない。それでも、自分は「彼」に会いたかった。
吐く息が白い。厳しい気温には耐えられる体だし、もしそうでなくても耐えるつもりだったが、今の自分にはとにかく時間がない。ほんの数秒でも長く会っていたかったから、早く「彼」にこの場に現れて欲しかった。
能力的に考えるのなら、自ら基地内に入るのは容易いことだった。鉄線を飛び越えるのは至極容易。基地の建物内に誰にも気付かれずに侵入する自信もあった。
だが、もし、「彼」と屋内で二人きりになってしまえば、夜の闇が朝日に破られる時間まで、自分は「彼」から離れられなくなる可能性があった。それ程に飢えている。だから、この場所で会うことにしたのだ。鉄線を絶対に飛び越えるな、と自分に言い聞かせながら、ソロモンは「彼」を待つ。
冷たい霧雨が降り始めた。
自分の世界から音が消える。
ポリカルポフの後部車輪の陰から、隙なく軍服を着込んだカールが現れた。軍帽から長い黒髪を垂らし、軍人らしい厳しい表情のまま、瞬きもせずにソロモンを真っ直ぐ見据え、軍靴の音を忍ばせながらも堂々とした歩みで近づいてくる。
カール。
会いたくてたまらなかったのに、任務の関係で長い間会えなかった相手が目の前にいる。だが、その場で静止したまま、ソロモンもまた表情を変えなかった。
カールが鉄線超しに、ソロモンの目の前で立ち止まる。互いに表情を変えずに真顔のまま、ただ、見詰め合った。どうしたって視界に入る幾本もの鉄の線が絶え間なく、言葉を交わすな、それ以上近付くな、と冷たく警告を発する。
その警告に逆らえばどうなるか、互いに理解していた。
だから、ただ見つめあう。今にも切れる寸前の引き絞りきった糸のように張り詰めた空気の中、会えて嬉しい、という表情すらださずに。
互いに微動だにしない中、先に動いたのはカールだった。
カールは皮手袋を外してポケットに入れると、自分の顔ぐらいの高さに手を上げて、有刺鉄線に手をやった。それを見てソロモンもまた、同じ場所に手をやる。どちらの手が先に動いたのかはわからない。が、気づけば鉄線越しに十本の指が絡み合った。
ぎゅう、と互いの手に力が込められる。
金属の冷たい棘が手のひらの皮膚を容易く破り、力を込めればより深く肉の中へと侵入する。それでも構わず、二人の手はもう離さないとばかりに、より深い接触を求めて、相手の手を自分のそれに縛り付けた。
もっと、もっと。
自分を抑えると思われた痛みですら、相手が欲しいという想いを加速させる要素でしかなかった。相手に触れる為の痛みであるならば、それはむしろ歓喜を呼び覚ますものに他ならない。
カールの表情に、何かを耐え忍ぶような色が加わる。
もっと側に。
喉元まで込み上げて来るその言葉を、二人は口にしない。任務、立場に絡めとられて。指先が互いを求めて、撫でるように蠢く。その度に、金属の棘が角度を変えて互いの手のひらを抉った。触れようとすればする程に傷つけあう。傷つけたいとは微塵も思っていないのに。ただ、相手の体温を感じたいだけなのに。
傷口から流れでる互いの血液が交じり合って、二つの手首に赤い線を作りながら伝っていく。カールは身を屈めて、自分の手首を伝うそれを口に含んだ。そのまま鉄線に顔を近づける。ソロモンはその意図を察して、自らも顔を接近させた。カールが赤く染まった舌を差し出す。ソロモンは、舌が鉄線に触れないように、慎重にその血を舐めとった。
嗚呼、美味しい。
瞬間、ソロモンは鉄線の隙間から腕を差し延べてカールを抱き締めてしまおうかと思った。禁欲的な軍服の下に押し隠された互いの感情を暴いてしまいたい。
鈍く血色に染まった瞳でカールを見つめれば、カールは首を横に振った。ソロモンは抗議しようとして――、
やめた。
それが合図であったかのように、二人は同時に手を引っ込め、同時に踵を返した。ソロモンは振り返らずにそのまま歩み始める。
手を開けば、有刺鉄線に傷つけられた皮膚がほぼ一瞬で治癒していくのが見える。今、後ろを振り返ってはならない。振り返れば、自分は鉄線を飛び越えて行ってしまうだろうから。カールも、絶対に振り返られないだろうから。
ソロモンは帰路に着いた。
一度だけ、カールが振り返ったことを知らないまま。
終
ポリかルポフは、世界大戦中、中国軍の主力戦闘機でした。
アニメ版だと、40年代の写真のカールは背広でしたが、小説版だと軍服姿のよう。アニメ版を見た時は、カール、ス●ス銀行でシュヴァリエーズの財産管理でもやってたのかなーと思ったのですが。
小説版通り軍人だったとすると…カール…背広組軍人!?
ソロモン&カールは連合国側みたいですが、どの国に所属していたのでしょうね。
戻る
2006/11/10
時代は1940年代ぐらい。
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ただ、どうしようもなく、会いたかったのだ。会うこと自体が禁忌だったとしても。
赤に染まる棘
会 い た い
そのメッセージを他の暗号文の中に巧みに紛れさせて、某国軍にいる「彼」に電報を打ったのが数日前。
遠くに雷鳴が聞こえる夜。大きな翼を持つ生き物が、ひとけの無い森の中に着地した。その数分後、軍服の上にロングコートを着た人影が、有刺鉄線の張り巡らされた臨時の軍事基地へと向かっていた。
特徴の無い東洋系の顔を持つ男だ。男は有刺鉄線の前で止まると、何かを探すようにあたりを見回した。右、左、と見回す内に、男の顔が一瞬にして全く別のものへと変化する。この地域では滅多に見ることのできない、見事な金髪碧眼。その姿を知っている者は、彼をソロモンと呼ぶ。
ソロモンは自分の姿形がこの国では目立つ事この上ない為、目的地に着く直前までは姿を変えていたのだ。が、やはりこれから会う人物とは、自分本来の姿で会いたかった。
胴の太い複葉機――この国の主力機であるポリカルポフⅠ-16を鉄線越しに見上げながら、異国にいるということを再認識する。(自分の所属する軍ではポリカルポフを見ることはない)本来、自分は今この国にいてはいけないのだ。某国軍の基地内にいなくてはならない。それでも、自分は「彼」に会いたかった。
吐く息が白い。厳しい気温には耐えられる体だし、もしそうでなくても耐えるつもりだったが、今の自分にはとにかく時間がない。ほんの数秒でも長く会っていたかったから、早く「彼」にこの場に現れて欲しかった。
能力的に考えるのなら、自ら基地内に入るのは容易いことだった。鉄線を飛び越えるのは至極容易。基地の建物内に誰にも気付かれずに侵入する自信もあった。
だが、もし、「彼」と屋内で二人きりになってしまえば、夜の闇が朝日に破られる時間まで、自分は「彼」から離れられなくなる可能性があった。それ程に飢えている。だから、この場所で会うことにしたのだ。鉄線を絶対に飛び越えるな、と自分に言い聞かせながら、ソロモンは「彼」を待つ。
冷たい霧雨が降り始めた。
自分の世界から音が消える。
ポリカルポフの後部車輪の陰から、隙なく軍服を着込んだカールが現れた。軍帽から長い黒髪を垂らし、軍人らしい厳しい表情のまま、瞬きもせずにソロモンを真っ直ぐ見据え、軍靴の音を忍ばせながらも堂々とした歩みで近づいてくる。
カール。
会いたくてたまらなかったのに、任務の関係で長い間会えなかった相手が目の前にいる。だが、その場で静止したまま、ソロモンもまた表情を変えなかった。
カールが鉄線超しに、ソロモンの目の前で立ち止まる。互いに表情を変えずに真顔のまま、ただ、見詰め合った。どうしたって視界に入る幾本もの鉄の線が絶え間なく、言葉を交わすな、それ以上近付くな、と冷たく警告を発する。
その警告に逆らえばどうなるか、互いに理解していた。
だから、ただ見つめあう。今にも切れる寸前の引き絞りきった糸のように張り詰めた空気の中、会えて嬉しい、という表情すらださずに。
互いに微動だにしない中、先に動いたのはカールだった。
カールは皮手袋を外してポケットに入れると、自分の顔ぐらいの高さに手を上げて、有刺鉄線に手をやった。それを見てソロモンもまた、同じ場所に手をやる。どちらの手が先に動いたのかはわからない。が、気づけば鉄線越しに十本の指が絡み合った。
ぎゅう、と互いの手に力が込められる。
金属の冷たい棘が手のひらの皮膚を容易く破り、力を込めればより深く肉の中へと侵入する。それでも構わず、二人の手はもう離さないとばかりに、より深い接触を求めて、相手の手を自分のそれに縛り付けた。
もっと、もっと。
自分を抑えると思われた痛みですら、相手が欲しいという想いを加速させる要素でしかなかった。相手に触れる為の痛みであるならば、それはむしろ歓喜を呼び覚ますものに他ならない。
カールの表情に、何かを耐え忍ぶような色が加わる。
もっと側に。
喉元まで込み上げて来るその言葉を、二人は口にしない。任務、立場に絡めとられて。指先が互いを求めて、撫でるように蠢く。その度に、金属の棘が角度を変えて互いの手のひらを抉った。触れようとすればする程に傷つけあう。傷つけたいとは微塵も思っていないのに。ただ、相手の体温を感じたいだけなのに。
傷口から流れでる互いの血液が交じり合って、二つの手首に赤い線を作りながら伝っていく。カールは身を屈めて、自分の手首を伝うそれを口に含んだ。そのまま鉄線に顔を近づける。ソロモンはその意図を察して、自らも顔を接近させた。カールが赤く染まった舌を差し出す。ソロモンは、舌が鉄線に触れないように、慎重にその血を舐めとった。
嗚呼、美味しい。
瞬間、ソロモンは鉄線の隙間から腕を差し延べてカールを抱き締めてしまおうかと思った。禁欲的な軍服の下に押し隠された互いの感情を暴いてしまいたい。
鈍く血色に染まった瞳でカールを見つめれば、カールは首を横に振った。ソロモンは抗議しようとして――、
やめた。
それが合図であったかのように、二人は同時に手を引っ込め、同時に踵を返した。ソロモンは振り返らずにそのまま歩み始める。
手を開けば、有刺鉄線に傷つけられた皮膚がほぼ一瞬で治癒していくのが見える。今、後ろを振り返ってはならない。振り返れば、自分は鉄線を飛び越えて行ってしまうだろうから。カールも、絶対に振り返られないだろうから。
ソロモンは帰路に着いた。
一度だけ、カールが振り返ったことを知らないまま。
終
ポリかルポフは、世界大戦中、中国軍の主力戦闘機でした。
アニメ版だと、40年代の写真のカールは背広でしたが、小説版だと軍服姿のよう。アニメ版を見た時は、カール、ス●ス銀行でシュヴァリエーズの財産管理でもやってたのかなーと思ったのですが。
小説版通り軍人だったとすると…カール…背広組軍人!?
ソロモン&カールは連合国側みたいですが、どの国に所属していたのでしょうね。
戻る
2006/11/10
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