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 三十七話の予告を見ていやーな予感を覚えながら書いたSS。
ソロカルSS。まだ小さなカールが選んだ未来は……。
今までのSSで一番カールの年齢が低いです。
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 未来は、その直前に無限の選択肢から選ばれるものではない。
生きれば生きるほどに、現在はどこかの未来へと傾いていく。
 時には、ある地点で未来が決まってしまうこともある。
 後になってから気づくのだ。
「あの時」には、もう、決まっていたのだと。



選び取られた未来



 白みがかった晴天の下、その館は静かに佇んでいた。館の主の人柄をあらわすように、重厚な家具が揃えられ、塵ひとつ落ちていないリビング。ソロモンはそこで、一年ぶりに再会したアンシェルと向かい合ってソファーに座っていた。
 ここ一年の近況を話して、聞いて。
 兄と話しながら、気になっていたことが一つあった。
「兄さん、カールは……」
 この一年、アンシェルのもとで生活していたカールのことを聞こうとした時、
「あ、ソロモン!」
 後ろから元気な声が聞こえて、ソロモンは振り返った。
 肩に届くか届かないか位の黒髪の、大きなそしてキツめの瞳の少年。
年は二桁に入って一、二年といったところ。
 前よりだいぶ背が伸びた…というような月並みな感想は、この時ソロモンの頭からすぐに消え失せた。
 カールは、どうやら骨を折ったらしい右腕を首から吊り下げ、そして左脚を包帯でぐるぐる巻きにされて、左手で松葉杖をつきながら、器用に片足でソロモンの方まで歩いてきた。

「久しぶりだなっ!」
「…どうしたんですか、それは」
 ソロモンが半ば唖然としながら訊くと、
「階段を板で滑り降りようとして、失敗して右腕の骨を折った。翌日、窓から外に出ようとして、片手で体を支えられずに落ちて、左脚を折った」
 アンシェルが淡々と答えた。
「失敗したが、ホントに面白かった。次は上手くやる!絶対だ!」
 自慢げに胸をはりながら、弾けるような笑顔を見せるカール。
「………」
 ソロモンが静かに立ち上がって……、
 ぱーん、という音が部屋に響いた。


数分後、
「見苦しいところをお見せしました」
 ソロモンはアンシェルにそう言って頭を下げて、リビングからでていった。

 カールは自室のベッドの上で、ソロモンに平手打ちを食らって腫れ上り、まだひりひりする頬に手をやっていた。
「カール」
 ソロモンがドアのあたりで声をかけると、カールは何か危険動物を見るような目つきで振り返った。ベッドの上に腰掛けてくるソロモンを警戒しながらも、逃げることができず舌打ちする。
 そんな時、ソロモンの手がカールの顔に伸びて、カールは思わずきつく目を閉じた。また叩かれる――と、思わず身を硬くしたものの、次に感じたのは痛みではなかった。左の頬に感じたのは冷たく濡れた感触で、目を開けば、濡らしたハンカチが押し当てられていた。

「…こんなに腫れるとは思わなかったんですけどね」
「………」
「………」
 どちらも喋らずにいると、先にカールが口を開いた。
「痛かった」
 非難するようなカールの視線を、ソロモンは静かに受け止める。
「…骨を折った時よりも?」
「…うん」
「カールが悪いんですよ」
 カールは明らかに気分を害したように、顔をしかめた。
「カールが悪いんです」
 ソロモンがもう一度断言すると、
「お前に、なにも迷惑かけてない!」
 カールも負けじと強い口調で言った。
「カール、僕がどうして叩いたか、わからないんですか?」
 膨れて黙り込むカールに、ソロモンはため息をついた。
「…前に、蝶を追いかけた子どもの話、したの覚えてます?」
「綺麗な蝶を夢中になって追いかけてたら、捕まえた瞬間に崖から落ちたっていう話か?」
「そうです。…僕はね、カール」
 ソロモンはハンカチを裏返して、もう一度カールの頬にあてる。
「あなたがそういう子に見えるんです」
カールは不思議そうにぱちぱちと数度瞬きをした。
「蝶を追いかけてもいいんです。…ただ」
「あなたがいなくなったら、涙を流す人がいることを忘れないで」
「…誰が、泣くんだ?」
 戸惑ったように訊くカールに、
「ここに、一人いますよ」
 ソロモンが抑えた声音で言うと、
「お前は泣かない…、絶対に泣かない」
 カールはどこか怯えたような目で、それでもきっぱり言った。
「…泣けないかもしれません。それでも、悲しみますよ」
「……代わりは、いくらでもいるのに??」
 カールの震えた声に、
「いません」
 ソロモンは言い切った。
 厳しい視線で射抜かれて、カールは居心地悪そうにして身じろぐ。
「…だから」
 独りで、遠いところに行かないでください。
 悲しげな双眸に真っ直ぐ見られて、カールもまた泣き出しそうだった。
 が、カールは首を横に振って、袖で滲んだ涙を拭くと、ソロモンを真剣な目で、真っ直ぐ見た。
「…ソロモン」
 次にカールが紡いだ言葉を、ソロモンはずっと、忘れることはなかった。
……ずっと、ずっと。

「世界で一匹しかいないような蝶を逃がすぐらいなら……」


僕は、捕まえて崖から落ちる方を選ぶ。




――――そしてあなたは、鮮やかな赤をのせた、黒いアゲハを追いかけた。



END



BGM:「普遍」(SAMURAI7 ED曲)

右腕、左脚、そして……。

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2006/6/23
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