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帰郷 ― いなくなってしまった男の子の話
「帰郷 ― いなくなってしまった男の子の話」
ソロカルSS。しかし二人はあまりでていません…。
---------------------------
それは、今から何十年も前のお話。
帰郷 ― いなくなってしまった男の子の話
本を読むのがとても大好きな男の子がいました。
特に、遠い国のことが書いてある本を読むのが、とっても大好きでした。
村の中に、遠い国に行ったことがある人がいて、男の子はその人の話を熱心に聞いていたそうです。
男の子は、歌うことも、とても大好きでした。
夜の砂浜で、潮騒と一緒に、海風にメロディーを乗せて歌っていたのです。
遠い遠い憧れの国に、せめて、自分の声だけでも届くように。
そうしたら、いつか、本当に憧れの地にいける気がしていたのです。
男の子は、大きくなって、大人の人になりました。
そうして、街に勉強しに行きました。
街に勉強しに行ってから、それから、遠い国に行くつもりだったそうです。
僕のおじいちゃんがこの話をしてくれた時、言っていました。
「こころざし」って何でしょう。僕にはよくわかりません。
大人になった男の子は、街に勉強行にってからも、お世話になった人にはちゃんと、手紙で「きんきょうほうこく」をしていたそうです。
でも、ある日から、手紙はぷつりと途絶えてしまいました。
そして、大人になった男の子は、二度とここには帰ってきませんでした。人攫いにあったのだとか、どこかで死んでしまったのだとか、好きな人ができてどこかに行ってしまったのだとか、色々な噂が流れたそうです。
村の人はとても心配して、街の人に大人になった男の子の行方を訊きに行きました。でも、街の人も何も知りませんでした。
ある日、大人になった男の子が突然姿を消してしまった、ということ以外は。
僕は、この話を何度か聞いたことがありましたが、別に好きな話でも嫌いな話でもありませんでした。
でも、僕のおじいちゃんがおかしなこと言ったのです。だから僕は、このお話が頭から離れなくなってしまったのです。
おじいちゃんは、とってもおじいちゃんです。
数字が3つあるのです。僕はまだ一つしかありません。
おじいちゃんは、僕を手招きして言いました。
僕は、誰か来ていないか、見に行きました。
でも、誰もいませんでした。
おじいちゃん 誰もいないよ
おじいちゃんはにっこりと笑いました。
そう言ってから、おじいちゃんは何も教えてくれませんでした。
それから、二日が立ちました。
僕は、たぶん「かんこうりょこう」に来た人が、道に迷っているのを見つけました。
僕は道を案内してあげながら、いなくなってしまった男の子の話を、その男の人にしました。
ここの言葉がわからない人かな、と思いましたが、男の人はちゃんとここの言葉がわかる人でした。好きな人とお話がしたくて勉強したんだそうです。
とても綺麗な顔の男の人でした。
目は綺麗な碧色で、太陽の光にきらきらと光る金髪の男の人でした。
きっと、いなくなってしまった男の子が行きたくてたまらなかった、遠い国から来た人だったのでしょう。
男の人は、僕の話を黙って聞いてくれました。
男の人は最後まで話を聞くと、手で目のあたりを押さえました。
たぶん、泣いていたのだと思います。
びっくりしました。
だって、この話を聞いて泣いた人なんて、始めて見たからです。
僕は 帰してあげなければいけないのです
男の人は言いました。
僕は男の人が何を言っているのかよくわかりませんでした。
そう言って、男の人は僕にお礼を言ってからどこかに行ってしまいました。不思議な人だと思いました。
僕はその夜、砂浜に座って海をじっと眺めていました。
いなくなってしまった男の子も、この砂浜で、海の向こうを、空の向こうを見ていたのでしょうか。
風に自分の声を乗せながら、男の子は素敵な夢を見ていたのでしょうか。
僕は、思うのです。
男の子は、行きたい場所に行けたのかと。幸せだったのかと。
…そして、ここから先は、まだ誰にも話していない秘密の話。
だって、誰も信じてくれないから。
僕が空を見上げていると、お月様の前を、大きな生き物が横切っていきました。その生き物は、とても大きな翼を広げていました。
人間よりも少し大きな生き物です。
僕はそんな生き物を初めて見ました。
大きな生き物は、ぽつり、ぽつり、と雨を降らしました。
それは、海に向かって落ちていきました。
その時、僕は海から声を聞いた気がしたのです。
それは、とても穏やかな声でした。
僕が家に帰ると、おじいちゃんが言いました。
…うん そうだね おじいちゃん
それから何回か、「いなくなってしまった男の子」の話を、友達とすることがありました。僕は、いつもこう言いました。誰も、その意味をわかってはくれなかったけれど。
終.
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2006/12/13
「帰郷 ― いなくなってしまった男の子の話」
ソロカルSS。しかし二人はあまりでていません…。
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それは、今から何十年も前のお話。
帰郷 ― いなくなってしまった男の子の話
本を読むのがとても大好きな男の子がいました。
特に、遠い国のことが書いてある本を読むのが、とっても大好きでした。
村の中に、遠い国に行ったことがある人がいて、男の子はその人の話を熱心に聞いていたそうです。
男の子は、歌うことも、とても大好きでした。
夜の砂浜で、潮騒と一緒に、海風にメロディーを乗せて歌っていたのです。
遠い遠い憧れの国に、せめて、自分の声だけでも届くように。
そうしたら、いつか、本当に憧れの地にいける気がしていたのです。
男の子は、大きくなって、大人の人になりました。
そうして、街に勉強しに行きました。
街に勉強しに行ってから、それから、遠い国に行くつもりだったそうです。
僕のおじいちゃんがこの話をしてくれた時、言っていました。
その男の子はね、
憧れていただけではなくてね 「こころざし」があったんだよ
だから 大変だったけれど 遠い国に行こうとしたんだ
憧れていただけではなくてね 「こころざし」があったんだよ
だから 大変だったけれど 遠い国に行こうとしたんだ
「こころざし」って何でしょう。僕にはよくわかりません。
大人になった男の子は、街に勉強行にってからも、お世話になった人にはちゃんと、手紙で「きんきょうほうこく」をしていたそうです。
でも、ある日から、手紙はぷつりと途絶えてしまいました。
そして、大人になった男の子は、二度とここには帰ってきませんでした。人攫いにあったのだとか、どこかで死んでしまったのだとか、好きな人ができてどこかに行ってしまったのだとか、色々な噂が流れたそうです。
村の人はとても心配して、街の人に大人になった男の子の行方を訊きに行きました。でも、街の人も何も知りませんでした。
ある日、大人になった男の子が突然姿を消してしまった、ということ以外は。
僕は、この話を何度か聞いたことがありましたが、別に好きな話でも嫌いな話でもありませんでした。
でも、僕のおじいちゃんがおかしなこと言ったのです。だから僕は、このお話が頭から離れなくなってしまったのです。
おじいちゃんは、とってもおじいちゃんです。
数字が3つあるのです。僕はまだ一つしかありません。
おじいちゃんは、僕を手招きして言いました。
あの子が帰ってきたよ でもまだ眠れないみたいだ
おじいちゃん 誰が帰ってきたの?
いなくなってしまった男の子だよ
僕は、誰か来ていないか、見に行きました。
でも、誰もいませんでした。
おじいちゃん 誰もいないよ
おじいちゃんはにっこりと笑いました。
待っているんだよ 大切な人が来るのを
そう言ってから、おじいちゃんは何も教えてくれませんでした。
それから、二日が立ちました。
僕は、たぶん「かんこうりょこう」に来た人が、道に迷っているのを見つけました。
僕は道を案内してあげながら、いなくなってしまった男の子の話を、その男の人にしました。
ここの言葉がわからない人かな、と思いましたが、男の人はちゃんとここの言葉がわかる人でした。好きな人とお話がしたくて勉強したんだそうです。
とても綺麗な顔の男の人でした。
目は綺麗な碧色で、太陽の光にきらきらと光る金髪の男の人でした。
きっと、いなくなってしまった男の子が行きたくてたまらなかった、遠い国から来た人だったのでしょう。
男の人は、僕の話を黙って聞いてくれました。
男の人は最後まで話を聞くと、手で目のあたりを押さえました。
たぶん、泣いていたのだと思います。
びっくりしました。
だって、この話を聞いて泣いた人なんて、始めて見たからです。
僕は 帰してあげなければいけないのです
男の人は言いました。
僕は男の人が何を言っているのかよくわかりませんでした。
きっと 彼は 帰りたかったのだと思います
でも 一度もこの地に帰ることはなかった
せめて 彼の一部だけでも 帰してあげたい
彼が 大好きだったという故郷の海に
だから 僕はこの地にやってきたのです
…彼は とても 小さな欠片になってしまったけれど
でも 一度もこの地に帰ることはなかった
せめて 彼の一部だけでも 帰してあげたい
彼が 大好きだったという故郷の海に
だから 僕はこの地にやってきたのです
…彼は とても 小さな欠片になってしまったけれど
そう言って、男の人は僕にお礼を言ってからどこかに行ってしまいました。不思議な人だと思いました。
僕はその夜、砂浜に座って海をじっと眺めていました。
いなくなってしまった男の子も、この砂浜で、海の向こうを、空の向こうを見ていたのでしょうか。
風に自分の声を乗せながら、男の子は素敵な夢を見ていたのでしょうか。
僕は、思うのです。
男の子は、行きたい場所に行けたのかと。幸せだったのかと。
…そして、ここから先は、まだ誰にも話していない秘密の話。
だって、誰も信じてくれないから。
僕が空を見上げていると、お月様の前を、大きな生き物が横切っていきました。その生き物は、とても大きな翼を広げていました。
人間よりも少し大きな生き物です。
僕はそんな生き物を初めて見ました。
大きな生き物は、ぽつり、ぽつり、と雨を降らしました。
それは、海に向かって落ちていきました。
その時、僕は海から声を聞いた気がしたのです。
ありがとう
それは、とても穏やかな声でした。
僕が家に帰ると、おじいちゃんが言いました。
やっと、あの子は、静かに眠れるんだ
…うん そうだね おじいちゃん
それから何回か、「いなくなってしまった男の子」の話を、友達とすることがありました。僕は、いつもこう言いました。誰も、その意味をわかってはくれなかったけれど。
男の子はね、海になったんだよ。
終.
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2006/12/13
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