忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

帰郷 ― いなくなってしまった男の子の話
「帰郷 ― いなくなってしまった男の子の話」
ソロカルSS。しかし二人はあまりでていません…。

---------------------------

それは、今から何十年も前のお話。





帰郷 ― いなくなってしまった男の子の話




本を読むのがとても大好きな男の子がいました。
特に、遠い国のことが書いてある本を読むのが、とっても大好きでした。
 村の中に、遠い国に行ったことがある人がいて、男の子はその人の話を熱心に聞いていたそうです。
 
 男の子は、歌うことも、とても大好きでした。
 夜の砂浜で、潮騒と一緒に、海風にメロディーを乗せて歌っていたのです。

 遠い遠い憧れの国に、せめて、自分の声だけでも届くように。
 そうしたら、いつか、本当に憧れの地にいける気がしていたのです。

 男の子は、大きくなって、大人の人になりました。
 そうして、街に勉強しに行きました。
 街に勉強しに行ってから、それから、遠い国に行くつもりだったそうです。

 僕のおじいちゃんがこの話をしてくれた時、言っていました。

 その男の子はね、
 憧れていただけではなくてね 「こころざし」があったんだよ 
 だから 大変だったけれど 遠い国に行こうとしたんだ


「こころざし」って何でしょう。僕にはよくわかりません。
 大人になった男の子は、街に勉強行にってからも、お世話になった人にはちゃんと、手紙で「きんきょうほうこく」をしていたそうです。

 でも、ある日から、手紙はぷつりと途絶えてしまいました。

 そして、大人になった男の子は、二度とここには帰ってきませんでした。人攫いにあったのだとか、どこかで死んでしまったのだとか、好きな人ができてどこかに行ってしまったのだとか、色々な噂が流れたそうです。
 村の人はとても心配して、街の人に大人になった男の子の行方を訊きに行きました。でも、街の人も何も知りませんでした。
 ある日、大人になった男の子が突然姿を消してしまった、ということ以外は。

 僕は、この話を何度か聞いたことがありましたが、別に好きな話でも嫌いな話でもありませんでした。
 でも、僕のおじいちゃんがおかしなこと言ったのです。だから僕は、このお話が頭から離れなくなってしまったのです。
 おじいちゃんは、とってもおじいちゃんです。
 数字が3つあるのです。僕はまだ一つしかありません。

 おじいちゃんは、僕を手招きして言いました。


あの子が帰ってきたよ でもまだ眠れないみたいだ


おじいちゃん 誰が帰ってきたの?



いなくなってしまった男の子だよ



 僕は、誰か来ていないか、見に行きました。
 でも、誰もいませんでした。


おじいちゃん 誰もいないよ


 おじいちゃんはにっこりと笑いました。

待っているんだよ 大切な人が来るのを


 そう言ってから、おじいちゃんは何も教えてくれませんでした。

 それから、二日が立ちました。
 僕は、たぶん「かんこうりょこう」に来た人が、道に迷っているのを見つけました。
 僕は道を案内してあげながら、いなくなってしまった男の子の話を、その男の人にしました。

 ここの言葉がわからない人かな、と思いましたが、男の人はちゃんとここの言葉がわかる人でした。好きな人とお話がしたくて勉強したんだそうです。

 とても綺麗な顔の男の人でした。
 目は綺麗な碧色で、太陽の光にきらきらと光る金髪の男の人でした。
 きっと、いなくなってしまった男の子が行きたくてたまらなかった、遠い国から来た人だったのでしょう。

 男の人は、僕の話を黙って聞いてくれました。
 男の人は最後まで話を聞くと、手で目のあたりを押さえました。
 たぶん、泣いていたのだと思います。
 びっくりしました。
 だって、この話を聞いて泣いた人なんて、始めて見たからです。


僕は 帰してあげなければいけないのです


 男の人は言いました。
 僕は男の人が何を言っているのかよくわかりませんでした。

きっと 彼は 帰りたかったのだと思います
でも 一度もこの地に帰ることはなかった
せめて 彼の一部だけでも 帰してあげたい
彼が 大好きだったという故郷の海に
だから 僕はこの地にやってきたのです

…彼は とても 小さな欠片になってしまったけれど


 そう言って、男の人は僕にお礼を言ってからどこかに行ってしまいました。不思議な人だと思いました。


 僕はその夜、砂浜に座って海をじっと眺めていました。
 いなくなってしまった男の子も、この砂浜で、海の向こうを、空の向こうを見ていたのでしょうか。
 風に自分の声を乗せながら、男の子は素敵な夢を見ていたのでしょうか。

 僕は、思うのです。
 男の子は、行きたい場所に行けたのかと。幸せだったのかと。



 …そして、ここから先は、まだ誰にも話していない秘密の話。
 だって、誰も信じてくれないから。

 僕が空を見上げていると、お月様の前を、大きな生き物が横切っていきました。その生き物は、とても大きな翼を広げていました。
 人間よりも少し大きな生き物です。
 僕はそんな生き物を初めて見ました。

 大きな生き物は、ぽつり、ぽつり、と雨を降らしました。
 それは、海に向かって落ちていきました。
 その時、僕は海から声を聞いた気がしたのです。


ありがとう



 それは、とても穏やかな声でした。


 僕が家に帰ると、おじいちゃんが言いました。


やっと、あの子は、静かに眠れるんだ



…うん そうだね おじいちゃん


 それから何回か、「いなくなってしまった男の子」の話を、友達とすることがありました。僕は、いつもこう言いました。誰も、その意味をわかってはくれなかったけれど。




男の子はね、海になったんだよ。






終.


戻る
2006/12/13

PR
忍者ブログ [PR]