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35話直後。ソロカル。
兄さんの方針にキレたカールが大暴走。暴走を止めるのは…?
*前半に一般人からの吸血シーンがあるので、お嫌な方は避けてください。
------------------
降り頻る雨よ。
私の怒りの炎を消せると言うのなら、消してみせるがいい。
水中火
裂くような雷鳴が聞こえる嵐の中、雨が激しく降りしきっていた。歩く者もまばらな、深夜の住宅街。ロンドンをひたすら北上した先にあるその街で、飢えた肉食獣―――ファントムが屋根から屋根へと飛び移り、駆けていた。仮面から覗く限界まで見開かれた瞳は、怒りに燃え上がりながらも、激しく動いて獲物を探し求めている。
自慢のマントも燕尾服も、雨水を吸いきっていたが、自分に触れた雨が全て湯気になって、蒸発するのではないかと思うほどに熱く滾る体を冷ますには、それでも足りない。
ただ、熱かった。
太陽が沈む夕刻時、血色に染まる西空が、熱を呼び覚ました。
自分の歓喜を奪われた、口惜しさ、怒り、落胆。
最初は自室でなんとか落ち着こうと努力はしたものの、自分自身を焼き尽くさんばかりの熱が、部屋に留まるという選択肢を奪ってしまった。
じっとしていられない。
だから、あの怪人の仮面をつけて、心に付ける事を強いられた仮面を捨て去った。
ただ自分の意志が導く方へと行ける様に。
そして窓から飛び出して、止まることを許さない何かに急きたてられるように、ひた走った。
フラッシュを焚くように、次々と白い閃光が視界を支配する中を、走り続ける。
そして、ファントムの双眸が赤く染まった。
目の前に迫る、家と家の間にある路地に、獲物がいると本能が告げる。ファントムは屋根を強く蹴って、獲物に向かって飛び降りた。獲物に接近するまでの一瞬で、品定めをしようと瞳孔が一気に広がる。黒髪の、細身の女だった。
―――完璧だ。
腕を翼手化させ、わざと壁に爪を立て、きぃ―という音を女に聞かせる。
女がこちらを見上げ、その首筋があらわになった。女の顔が恐怖に染まるより早く着地し、その口を左手で塞いで、もう片方の手で抱き込むようにして背中に手をまわし、次にくる瞬間を予感して鋭利なものへと変化した刃歯を、首筋に突き立てる。
牙が薄い皮膚を突き破り、細い血管、太い血管の壁を、次々に穿つ。若い心臓によって押し出された赤の奔流は、その勢いのまま、開けられたばかりの出口から一気に外へと吹き出した。
鈍い呻き声が聞こえて、抵抗しようと細い腕が宙を舞ったのも束の間、すぐに力が抜けてだらんと肩から垂れ下がる。
口の中に広がる味、そして喉をくだっていく感覚に、ファントムは女の身体を抱く腕に力を込めて、牙をより奥へと侵入させた。
その血を美味と感じる瞬間まで吸うと、女の身体から手を離した。
数刻前よりかなり軽くさせられてしまった身体が、どさりと音をたてて落ちる。
ファントムは失望したように、その体を見下ろした。
熱が、オサマラナイ。
首から水溜まりに赤いものが広がっていく光景を見る前に、ファントムは屋根へと飛び上がり、次の獲物を探すため、雨の中を駆けていった。
* * *
ソロモンはカールがいる筈だった部屋で立ち尽くしていた。
持ち主の消えたその部屋では、クローゼットと窓が開け放たれ、床には半開きになった鞄が転がっていた。
「本当にしょうがない人ですね・・・」
ソロモンは苦笑しながらクローゼットと窓を閉じて、鞄を拾って机の上に置いた。普段、カールがまるで誰も住んでいないかのように部屋を整頓していることを考えれば、思い立ったが吉日とばかりに、周りのことに手が回らないまま突発的に外に出ていったと考えるのが妥当だろう。
小夜のことを考えないではなかったが、カールが小夜の位置を知っていた様子はなかったため(危ない笑みを浮かべるのですぐわかる)、それはないだろうと思った。
一体どこまで遊びに行ったんでしょうね、と独り言を言いながらベッドに腰掛ける。今頃夜の街を走り回っていることだろうと、その光景を思い浮かべながら、数刻前の彼を思い出す。
自分は会議の関係でその場を立ち去らざるを得なかったが、カールを振り返った時、怒りに身体を震わせた彼の姿が脳裏に焼き付いたのだ。
止めなければ長兄に飛び掛かっていたかもしれないことも考えれば、なんとかカールが爆発する前に落ち着かせてやりたかった。
……彼の願いを叶えてやることは、自分にはできないけれども。
ふと、ソロモンは窓を見た。
全く隠そうとしていない、膨れ上がるような殺気が接近してきていた。
ソロモンは特に驚きもせず、落ち着いた表情のまま窓を開けると、斜め後ろに後退する。
そして、窓から黒い塊がとびこんできた。
全身がびしょ濡れになったそれが着地すると、全方向に水が撒き散らされる。
「…一体どこまで行ってたんですか?」
ソロモンは呆れたように言った。
ロンドン郊外では、この夜雨は降っていなかった。
「…何故、いる?」
カールは仮面を外して机に置いた。ソロモンの方を振り向いた双眸は鮮やかな赤い光を放っていた。
「同情かけにきました」
「はっ…、お前に同情されるとは私も墜ちたな」
「少しは、落ち着きました?遊んで来たのでしょう?」
ソロモンが訊くと、カールはぎくりと身を震わせた。
「カール?」
「…全くだ!!全く落ち着かない!」
カールが叫ぶと、瞳の赤い光が光度を増す。カールは慣れた手つきでマントの赤いリボンを一気に解くと、
「抱け」
ソロモンに有無を言わせない声音で命令し、その場にマントを脱ぎ捨てた。水を大量に含んだそれは床に落ちるとびちゃりと音を立てる。
「カール」
「…気持ちが、治まらん」
「…そういうのは…」
言い淀むソロモンにカ―ルは軽蔑したような目を向け、襟元を緩める手を止めた。小さく、「どうでもいい時にさかっておいて」と毒づく声が聞こえた気がした。
「…アンシェルのところへ行く」
攻撃的な瞳のまま、横を通り過ぎようととするカールに向かって、
「どうする気ですか」
ソロモンは厳粛に訊いた。
それに答えるように、右手を翼手化させるカールに、
「やめなさい」
ソロモンもまた、命令するように言う。他ならぬカールの為だ。
「あなたが兄さんに敵うわけないでしょう」
ソロモンが厳しい口調で言うと、カールは振り返って、
「なら抱け!」
悲痛な叫び声をあげた。
自分が泣いていることに気づかないまま、カールの涙が宙を舞う。
「体が…熱くて仕方ない」
熱を帯びて潤んだ瞳で、カールは声を震わながら訴えた。
「落ち着きなさい、カール」
ソロモンがカールの肩に手を伸ばすと、カールはそれを振り払った。
敵に相対する獣のようだ、とソロモンは思った。目の前のカールは、上体を低くして後退しながら、自分を刺すような目で睨みつけている。いつ飛び掛ってきてもおかしくない、そんな殺気を隠そうともしていない。
その感想はほぼ当りだったと、すぐ後にわかった。
「カー…」
ソロモンがもう一度手を伸ばそうとした瞬間、カールはソロモンに飛び掛っていた。
「…っ…」
ソロモンの鈍い呻き声と同時に、すぶり、とカールの牙が無遠慮にソロモンの首に刺さる。
ぐっ、と力をこめてより深くにそれを侵入させるカールの背中を抱くと、濡れた服越しに、それ自体が発熱しているような熱い熱が伝わってきた。
焼けるようなそれを感じて、きっと自分ではこの熱をどうしようもなくなっていたのだろう、とソロモンは思いながら、片方の手をカールの髪にやった。
カールはそれにぴくりと体を震わせながらも、ソロモンの血を吸い上げ続ける。
諭すように、ゆっくりと下へ向かってカールの髪を撫でる。水を含んだ黒髪の間を、ソロモンの指が静かに滑っていく。
何度も何度も撫でていくうちに、首筋に感じる圧迫感がだいぶ弱くなってきて、ソロモンの手がカールの背中を撫で始めた時には、全方向にカールが発していた殺気が消えていた。
カールはゆっくりと牙を抜いて、皮膚に残った血を舐めとって、ソロモンに体を預ける。
「お味はいかがでした?」
「…まずかった」
ソロモンの肩に頭を乗せて言うカールの声音は、先程よりもだいぶ柔らかくなっていて、ソロモンは目元を緩ませた。
END
ナ/ウ/シ/カに噛み付いた狐リス君を思い出してもらえれば。
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2006/06/16
兄さんの方針にキレたカールが大暴走。暴走を止めるのは…?
*前半に一般人からの吸血シーンがあるので、お嫌な方は避けてください。
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降り頻る雨よ。
私の怒りの炎を消せると言うのなら、消してみせるがいい。
水中火
裂くような雷鳴が聞こえる嵐の中、雨が激しく降りしきっていた。歩く者もまばらな、深夜の住宅街。ロンドンをひたすら北上した先にあるその街で、飢えた肉食獣―――ファントムが屋根から屋根へと飛び移り、駆けていた。仮面から覗く限界まで見開かれた瞳は、怒りに燃え上がりながらも、激しく動いて獲物を探し求めている。
自慢のマントも燕尾服も、雨水を吸いきっていたが、自分に触れた雨が全て湯気になって、蒸発するのではないかと思うほどに熱く滾る体を冷ますには、それでも足りない。
ただ、熱かった。
太陽が沈む夕刻時、血色に染まる西空が、熱を呼び覚ました。
自分の歓喜を奪われた、口惜しさ、怒り、落胆。
最初は自室でなんとか落ち着こうと努力はしたものの、自分自身を焼き尽くさんばかりの熱が、部屋に留まるという選択肢を奪ってしまった。
じっとしていられない。
だから、あの怪人の仮面をつけて、心に付ける事を強いられた仮面を捨て去った。
ただ自分の意志が導く方へと行ける様に。
そして窓から飛び出して、止まることを許さない何かに急きたてられるように、ひた走った。
フラッシュを焚くように、次々と白い閃光が視界を支配する中を、走り続ける。
そして、ファントムの双眸が赤く染まった。
目の前に迫る、家と家の間にある路地に、獲物がいると本能が告げる。ファントムは屋根を強く蹴って、獲物に向かって飛び降りた。獲物に接近するまでの一瞬で、品定めをしようと瞳孔が一気に広がる。黒髪の、細身の女だった。
―――完璧だ。
腕を翼手化させ、わざと壁に爪を立て、きぃ―という音を女に聞かせる。
女がこちらを見上げ、その首筋があらわになった。女の顔が恐怖に染まるより早く着地し、その口を左手で塞いで、もう片方の手で抱き込むようにして背中に手をまわし、次にくる瞬間を予感して鋭利なものへと変化した刃歯を、首筋に突き立てる。
牙が薄い皮膚を突き破り、細い血管、太い血管の壁を、次々に穿つ。若い心臓によって押し出された赤の奔流は、その勢いのまま、開けられたばかりの出口から一気に外へと吹き出した。
鈍い呻き声が聞こえて、抵抗しようと細い腕が宙を舞ったのも束の間、すぐに力が抜けてだらんと肩から垂れ下がる。
口の中に広がる味、そして喉をくだっていく感覚に、ファントムは女の身体を抱く腕に力を込めて、牙をより奥へと侵入させた。
その血を美味と感じる瞬間まで吸うと、女の身体から手を離した。
数刻前よりかなり軽くさせられてしまった身体が、どさりと音をたてて落ちる。
ファントムは失望したように、その体を見下ろした。
熱が、オサマラナイ。
首から水溜まりに赤いものが広がっていく光景を見る前に、ファントムは屋根へと飛び上がり、次の獲物を探すため、雨の中を駆けていった。
* * *
ソロモンはカールがいる筈だった部屋で立ち尽くしていた。
持ち主の消えたその部屋では、クローゼットと窓が開け放たれ、床には半開きになった鞄が転がっていた。
「本当にしょうがない人ですね・・・」
ソロモンは苦笑しながらクローゼットと窓を閉じて、鞄を拾って机の上に置いた。普段、カールがまるで誰も住んでいないかのように部屋を整頓していることを考えれば、思い立ったが吉日とばかりに、周りのことに手が回らないまま突発的に外に出ていったと考えるのが妥当だろう。
小夜のことを考えないではなかったが、カールが小夜の位置を知っていた様子はなかったため(危ない笑みを浮かべるのですぐわかる)、それはないだろうと思った。
一体どこまで遊びに行ったんでしょうね、と独り言を言いながらベッドに腰掛ける。今頃夜の街を走り回っていることだろうと、その光景を思い浮かべながら、数刻前の彼を思い出す。
自分は会議の関係でその場を立ち去らざるを得なかったが、カールを振り返った時、怒りに身体を震わせた彼の姿が脳裏に焼き付いたのだ。
止めなければ長兄に飛び掛かっていたかもしれないことも考えれば、なんとかカールが爆発する前に落ち着かせてやりたかった。
……彼の願いを叶えてやることは、自分にはできないけれども。
ふと、ソロモンは窓を見た。
全く隠そうとしていない、膨れ上がるような殺気が接近してきていた。
ソロモンは特に驚きもせず、落ち着いた表情のまま窓を開けると、斜め後ろに後退する。
そして、窓から黒い塊がとびこんできた。
全身がびしょ濡れになったそれが着地すると、全方向に水が撒き散らされる。
「…一体どこまで行ってたんですか?」
ソロモンは呆れたように言った。
ロンドン郊外では、この夜雨は降っていなかった。
「…何故、いる?」
カールは仮面を外して机に置いた。ソロモンの方を振り向いた双眸は鮮やかな赤い光を放っていた。
「同情かけにきました」
「はっ…、お前に同情されるとは私も墜ちたな」
「少しは、落ち着きました?遊んで来たのでしょう?」
ソロモンが訊くと、カールはぎくりと身を震わせた。
「カール?」
「…全くだ!!全く落ち着かない!」
カールが叫ぶと、瞳の赤い光が光度を増す。カールは慣れた手つきでマントの赤いリボンを一気に解くと、
「抱け」
ソロモンに有無を言わせない声音で命令し、その場にマントを脱ぎ捨てた。水を大量に含んだそれは床に落ちるとびちゃりと音を立てる。
「カール」
「…気持ちが、治まらん」
「…そういうのは…」
言い淀むソロモンにカ―ルは軽蔑したような目を向け、襟元を緩める手を止めた。小さく、「どうでもいい時にさかっておいて」と毒づく声が聞こえた気がした。
「…アンシェルのところへ行く」
攻撃的な瞳のまま、横を通り過ぎようととするカールに向かって、
「どうする気ですか」
ソロモンは厳粛に訊いた。
それに答えるように、右手を翼手化させるカールに、
「やめなさい」
ソロモンもまた、命令するように言う。他ならぬカールの為だ。
「あなたが兄さんに敵うわけないでしょう」
ソロモンが厳しい口調で言うと、カールは振り返って、
「なら抱け!」
悲痛な叫び声をあげた。
自分が泣いていることに気づかないまま、カールの涙が宙を舞う。
「体が…熱くて仕方ない」
熱を帯びて潤んだ瞳で、カールは声を震わながら訴えた。
「落ち着きなさい、カール」
ソロモンがカールの肩に手を伸ばすと、カールはそれを振り払った。
敵に相対する獣のようだ、とソロモンは思った。目の前のカールは、上体を低くして後退しながら、自分を刺すような目で睨みつけている。いつ飛び掛ってきてもおかしくない、そんな殺気を隠そうともしていない。
その感想はほぼ当りだったと、すぐ後にわかった。
「カー…」
ソロモンがもう一度手を伸ばそうとした瞬間、カールはソロモンに飛び掛っていた。
「…っ…」
ソロモンの鈍い呻き声と同時に、すぶり、とカールの牙が無遠慮にソロモンの首に刺さる。
ぐっ、と力をこめてより深くにそれを侵入させるカールの背中を抱くと、濡れた服越しに、それ自体が発熱しているような熱い熱が伝わってきた。
焼けるようなそれを感じて、きっと自分ではこの熱をどうしようもなくなっていたのだろう、とソロモンは思いながら、片方の手をカールの髪にやった。
カールはそれにぴくりと体を震わせながらも、ソロモンの血を吸い上げ続ける。
諭すように、ゆっくりと下へ向かってカールの髪を撫でる。水を含んだ黒髪の間を、ソロモンの指が静かに滑っていく。
何度も何度も撫でていくうちに、首筋に感じる圧迫感がだいぶ弱くなってきて、ソロモンの手がカールの背中を撫で始めた時には、全方向にカールが発していた殺気が消えていた。
カールはゆっくりと牙を抜いて、皮膚に残った血を舐めとって、ソロモンに体を預ける。
「お味はいかがでした?」
「…まずかった」
ソロモンの肩に頭を乗せて言うカールの声音は、先程よりもだいぶ柔らかくなっていて、ソロモンは目元を緩ませた。
END
ナ/ウ/シ/カに噛み付いた狐リス君を思い出してもらえれば。
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2006/06/16
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