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<十月の果てへ踊れ 4>




 カールはふらふらと、通路の壁に片手をつきながら、薄暗い中を歩いていた。
 壮絶な笑みを口元に浮かべながら、彼は泣いていた。
 自分がついさっきしたことを、後悔はしていない。
 全ては自分が、望んだこと。
 全ては自分が、成したこと。
 誰に命令されたわけでもない、自分の望みのために、したこと。
 それでも、ソロモンの顔を見ると、声を聞くと、呼吸がまともに出来るわけなどなくて、”演じている”最中に何度も途中で言葉を切ってしまった。グレゴリーがいなかったら、最後まで演じることは難しかっただろう。
 やはり嘘をつくのは下手だなと自嘲する。
 たとえどんなに時間が経とうとも、どんなに気持ちを偽ろうとも、どんなに必死に自分を騙そうとしても、ソロモンを想う心は、カールが人間であったときのものと少しも変わっていない。もうあの日々から、百年近く経っているというのに。

「ファントム! 大丈夫っ!?」

 ルルゥがドアを開けたのが見えるが、その言葉はカールの耳に入らない。
 カールは部屋に入りドアを閉めると、ドアを背にしてその場に座り込んだ。

「……私は、嘘をつくのが下手なようだ」
「頑張った。頑張ったよ」

 ルルゥはしゃがんで言う。
 この娘をこの場へ呼んだのはカールだ。
 今宵の宴の参加者であるシフの二人が、宴に参加する代わりにこの娘に会わせろと申し出ていたからだ。

『この娘に会わせてくれてありがとう。言われた通り、どんな役目でも果たそう』

 あの二人が果たす役目は、いわば斬られ役。
 死者が殺されてもまた元の場所に戻るだけだが、それでもルルゥに斬られる現場を見せるわけにはいかないとシフの二人が言っていたので、宴が終わるまでルルゥにはこの部屋を出ないように厳命してある。11月を迎えれば、どのような結末になるにしろ、この宴は終わる。だから、11月がやってくるまでは、この部屋から出てはいけないと。

『もう、この娘には会えないと思っていた。どんな理由であれ、会わせてくれて感謝する』

 微笑んでいたシフの二人組の姿を思い出しながら、カールは目を閉じる。
 あの二人は、ソロモンに斬られたとしても、元の死者の世界へ戻るだけだ。
 しかし、カールが自分に望む結末は、違うところにある。

 生きている間、カールは永い時間ソロモンに心を囚われ続けた。死んだら楽になれるのだろうかと思っていたら、そんなことはなかった。妄執にも似た想いは、死しても消えることはなく。苦しみはむしろ増すばかり。

 嗚呼、それでも、忌わしい程に、
 頭に焼きついて離れないのは、
 カールが人として死んだときも、
 カールがシュヴァリエとして死んだときも、
 カールから目を反らすソロモンの姿。

 何故、二回もあんな絶望を味合わなければならなかったのだろう。

 せめて、この姿を、あの碧の双眸に映して欲しかった。
 終わりゆくこの身は、視界に入れる価値もなかったのだろうか。
 ならば、蔑む瞳で見下してくれればよかったのだ。そうしたら、この魂は跡形もなく消え去ることができたのに。

 心を奪われ、人としての命を奪われ、翼手の命も奪われ。
 死してもまだ、あの男に魂を囚われている。

 そんな自分が望んだのは、たった一つのこと。

“もし、ほんの少しでも慈悲があるのなら、どうか渾身の憎悪で、心も身体も粉々に破壊しつくし、魂を跡形もなく焼きつくしてください。もう二度と、黄泉返ることも出来ず、死者の世界で存在出来ない程に”



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