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 ソロカル過去捏造話。
 

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僕は、絶望の中にいた。
自分は、誰も幸せにはできないと思っていた。
与えることもできず。得ることもできず。

だから僕は、一筋の希望に縋った。
たった一人、僕を見てくれた人に、僕はついていったのだ。その人のいる世界になら、希望があると信じたから。
そして、人であることをやめた。

それでも、僕は、絶望の中にいた。
人でない存在になったことに、後悔はなかった。
しかし、自分は、生きる世界をどう変えても、与えることもできず、得ることもできない存在なのだと思い知った。

僕は誰にとっても、代わりがいる人間でしかなかったのだ。

 でも、そうではないのだと教えてくれた人がいた。
 僕も、掛け替えのない人間になることができるのだと。
 
 楽しかった。本当に。あの時は。

 では、絶望から救ってくれたその人から、全てを奪って地獄に引きずり堕とした僕は、一体どのような罰を受ければいいのだろう。



   地獄への組曲 1



 できれば、薬などは使わない方がいい。
 ディーヴァが嫌がるようでは困る。
 そして、身体に傷をつけるのも。
 ディーヴァの血に耐えられない可能性がある。
 候補をいくつかあげておく…。
 全て押えておけ。
 私が選んだ時、いつでも万全の状態で連れてこられるように。


 二十世紀前半のある日。
 晴れ渡った青い空の下、ハノイの道を一台の車が走っていた。助手席側の窓が開いていて、そこから入り込んだ風が、中にいる青年の金髪を揺らしている。青年の顔は決して機嫌がいいとは言えず、異国の地が運んでくる空気の感触に、どこか嫌悪感を覚えているふしすらあった。
 青年――ソロモンそんな表情のままで、複数いる「ターゲット」の調査書類の1枚に目を通していた。

  カール・フェイオン。ハノイの在住の大学生。
  決して裕福な生まれではなく、二年前に両親に死なれ、今は奨学金などでなんとか生きている。
  かなり古いアパートに部屋を一つ借りているらしい。
  大学に入る前に働いて稼いだ時期もあったようだ。
  成績書を見れば、なんとか奨学金給付基準のギリギリラインあたりにいる。
  性格は素朴で真面目…とある。
  学友は少なくないようだが、深い付き合いの友人はあまりいないようだ。

 落とし易そうななタイプだ、とソロモンはふんだ。
 無表情のままの他の詳細事項にも目をやる。
 書類が風にはためいて、顔を顰めながら前を見ると、目的の場所――カール・フェイオンが通う大学の門が遠くに見えた。ソロモンは聴講生としての登録を済ませていた。あとは実行あるのみだ。 大学という場所で、学生と知り合うのは簡単だ。

  「すみません、隣いいですか?テキスト忘れてしまって…見せてもらえますか?」  
  ソロモンの容姿と会話能力があれば、より、簡単だった。

  自分は学期途中からの聴講生だから、まだ校舎のことがよくわからない。
  今授業はどのあたりまで進んでいるのか。
  授業の時間割表を見せてもらって、驚きながら「4コマも一緒ですね」
  …もちろん、そうなるように仕向けたわけだが。

 ある程度会話が続けばこっちのもの。
 こちらの容姿を見て、出自に関する質問が絶対にあちらからでるだろうし、そこで興味をひくような受け答えをすればいい。もちろん始終スマイルを忘れずに。
 ソロモンは大して興味も無さそうに、書類をしまいながらそんなことを考えていた。

 何人かいる「ターゲット」のうちの誰かが五番目のシュヴァリエとして選ばれる。シュヴァリエとは何たるかを知るための実験材料――モルモットとして。そのことで罪の意識などいちいち感じていては仕事にならない。ただ、兄の命令どおりにやればいい。他のことに心を奪われるな。それが、まだ決して長くはないシュヴァリエとして経験がソロモンに教えた教訓だった。


 夕暮れ時。
 ソロモンは朝と同じように、無表情で車の助手席に座っていた。
 コトは予想通りに運んだ。フェイオンはまんまとこちらの話術にかかった。そのあまりに簡単さに、なんとなく、フェイオンは「選ばれない」だろうと思いながら、確保しておくのも実に簡単そうだ、とソロモンにしては珍しく楽観を決め込む。
 それでもどこか不機嫌そうな表情は変わらないまま、少しずつ闇に侵食される東の空を、緑の瞳がぼんやりと見つめていた。
 兄が五番目のシュヴァリエを「選ぶ」までは、どれくらいかかるだろうか。できれば早く決めてほしい。そうすれば、フランスに早く帰れる。
 車が二回角を曲がる。西の空、赤く輝く太陽が雲を赤く染めている様子が、ソロモンの瞳に映る。一体、いつになったらフランスに帰れるのやら。ソロモンは他のターゲットの書類を読み始めた。



 そんな調子で、ソロモンは仕事を始めたものだから、カール・フェイオンについて、ソロモンがしばらくは興味を抱くことは殆どなく、楽なターゲットだという認識以外、特別な感情を持つこともなかった。
 調査書との差異も特に見られない。退屈していないといえば嘘になる。
週三で、コマ数もたいして多くないとはいえ、また大学で授業を受けているということ自体妙な感じがして、まぁ、雑学増やし程度に聞いておくか、という程度の気持ちでソロモンは授業を受けていた。
 本来なら、ターゲットの挙動やら何やらの観察をしなければならないのだが、場所が場所なせいなのか、どうもいつも通りにいかない。
 大体、他のターゲットとの駆け引きで神経をすり減らしているので、楽ができるところで適度に手を抜いておきたかった。学友としての仲が保たれているのであれば、それ以上のことをする必要はない。

 そうやっていつも通り、目だけ真面目に前に向けながら適当に授業を聞いていたある日、ふとソロモンは、視線を横にやった。ただなんの気なしに隣の隣の席(二人の間の席には荷物が置いてある)にいたカール・フェイオンを視界にいれただけだったのだが、ソロモンはその姿に釘付けになり、しばらく前を見ることができなかった。
 教授の声がとても遠い誰かの声に聞こえる。講堂には他にも生徒がいるのだが、ソロモンは自分とカールしかいないような心地がした。
 ソロモンが見つめる先で、カールは真っ直ぐ、前を見て授業に聞き入っていた。時折手元で、ペンがさらさらとノートの紙面上を滑っていく。熱心に授業を聞いている、といえばそれまでなのだが、ソロモンはなにかそれ以上のものを感じ取った。見る者が、思わず息を呑むような凄みのようなもの。この距離で誰かにじっと見つめられれば気づきそうなものだが、カールは全く気づかない。

 他の授業ではどうなのだろうと、ソロモンは同じようにカールを見てみた。そこには、やはり他のものを完全にシャットアウトしているカールの姿があった。目に凄まじい力が漲っている。その姿は何かに憑かれているのではないかと本気で心配しそうになるほどのもの。

その姿から、ソロモンは目を離せなかった。

自分がカールに見惚れているのだと気づくのには少し時間がかかった。
とうの昔に自分が無くしてしまった真っ直ぐな瞳に、自分が惹かれているのだと。

そして知らなかった。
自分の想いに気づいた時には既に、引き返せなくなっていたことに。






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