×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
年始に書いたSS。
カールにとっての「年」とは?そんなSSです。
-----------------------------
嬌声。
本来、大切な人との交わりにあげる筈の声が、悲しき泣き声に聞こえるのは何故だろうか。
年は暮れる
大晦日。年が暮れる直前。
カールがソロモンを訪ねると、シャワーで濡れた髪を乾かさないまま、ソロモンは自室のベッドで横になっていた。何ヶ月も仕事続きだったから、この日ぐらいはベッドで横になっていたかったらしい。疲れを知らない翼手の身とはいえ、ふかふかのベッドで横になるという行為がもたらす安らぎはある。ディーヴァは休眠中だったし、予定が合わないということで、兄弟同士の大きなイベントがなかったのがソロモンにとっては幸いした。
一言二言、言葉を交わしてから、カールは同じ部屋のソファに腰を降ろした。
カールはそんなソロモンを横目に見ながら、一瞬悲しげに目を伏せる。
ソロモンは知らずに、気持ち良さそうに目を閉じていた。
カールはソファから立ち上がると、真っ直ぐ、ソロモンが横になっているベッドへと歩を進めた。
カールが近づく気配にソロモンは目を開ける。
ソロモンが何かを言う前に、カールは無言でベッドに潜り込んだ。
驚くソロモンを無視して、カールはソロモンの背中に手を回した。
* * *
カールがソロモンのベッドに入り込む数時間前。
とある実験室。カールにとってそこは悪い意味で、馴染みの深い場所だった。己の身体が切り刻まれる、『実験室』。
真っ赤な夕日に染められた部屋の床は、どこまでが血の池なのか、どこまでがそうでないのか、わからなくなっていた。
『実験』を終え、カールは赤と黒しか存在しない部屋で一人、壁にもたれ掛かっていた。
長い髪が顔の半分を覆い隠している。
ずずず…と、背と壁が摩擦する音を立てながら、カールはその場に座り込む。脚を投げ出しながら、そういえば今日で年が暮れるんだったな、と、今更ながらに思い出す。
年が暮れて、年が明けて、年が暮れて、また明けて。
1年、2年、と時が過ぎていく。
それはただこの大地が、恵みの光をもたらす星の周りを、幾度回ったかというだけのことを表しているに過ぎない。そのどこを始点にして終点するかは、勝手に人間が決めたことだ。絶対的な意味はない。
だが、年が往ってしまうたびに、思う。
少しずつ、自分は過去から離れていく。
どんなに巨大な建造物も遠ざかればいつか見えなくなってしまうように、忘れたくない過去も永い時の中で消え去ってしまうのだろうか。
カールは部屋を染める赤と、普通の人間であれば目にしたくない光景を見ながら、思う。
身体を切り刻まれるたび、自分でないものと接合される度に、恐れるのは身体を犯す痛みではなくて、失っていく肉体と共に刻まれた過去を奪われてしまう事だ。
昔、ソロモンと共に幸せだけがあった時間。
抱きしめられた時の温もり、交わした熱と痛み、そして心地良さ。
『モルモット』としての生に嫌悪感がないわけではない。
だが、自分の一部が切り落とされて、異物と繋がれることで、過去が変形し変色するのではないかという恐怖感の方がそれに勝っていた。
* * *
ベッドに潜り込み、カールが抱いてほしい、というようにソロモンに縋り付けば、ソロモンは何も言わずにカールの身体をかき抱いた。
こうやってどうしようもない寂しさに任せて縋れば、ソロモンはいつだってカールの求めに応じていた。ソロモンの行動が哀れみの感情から来るものなのか、それ以外のものから来るものなのかはカールにはわからない。
年月の流れ、付け替えられていく身体。その両方が過去の変色を加速させていく。
ソロモンに抱かれながら、思う。
もう、かつての自分の身体であった部分は、殆どが異物へと付け替えられている。
それでも、こうして身体の奥にソロモンを感じる瞬間は、脳髄に残る快楽の記憶と一瞬にして結び付けられる。この時間だけ、自分は過去と繋がっていられる。
どこまでが、本当の身体なのだろう
どこまでが、本当の私の心なのだろう
どこまでが、本当の、私の記憶なのだろう
過去の記憶だけが、自分をなんとか保ってくれている。
それでもいつか、過去の記憶全てが朽ち果ててしまった時、自分は何者になるのだろう。
シュヴァリエになってから得たものが、ゼロだったわけではない。ただ、人であった時、自分は時と共に、『何処か』に進んでいた。真っ直ぐ前を見詰めて、全力で目的地を目指す。それがカールだった。
だが、人でなくなってから、自分は何処にも行けなくなってしまった。
『何処か』を目指そうと、カールは必死にもがいた。
『カールはいつも楽しそうですね。羨ましいです』
ソロモンにそう言われるたびに深く傷ついていく自分を隠す為に、仮面をつけて偽りの笑みを顔いっぱいに広げることで、自分で自分を辛い場所へと追い詰めてしまった。
行きたい場所がわからない。
湧き上がる気持ちも、欲望も、何もかもが、偽りかもしれない。
過去だけが自分を保ってくれるのに、その過去すら、ぐらついている。
情交の後、気付けば時計の短針が1をさしていて、いつの間にか年が明けていたことを知った。
進みたい。時と共に前へ。
でも。
でも。
どこへ?
終。
BGM キ/ミ/ガ/タ/メ
2008/01/04
戻る
カールにとっての「年」とは?そんなSSです。
-----------------------------
嬌声。
本来、大切な人との交わりにあげる筈の声が、悲しき泣き声に聞こえるのは何故だろうか。
年は暮れる
大晦日。年が暮れる直前。
カールがソロモンを訪ねると、シャワーで濡れた髪を乾かさないまま、ソロモンは自室のベッドで横になっていた。何ヶ月も仕事続きだったから、この日ぐらいはベッドで横になっていたかったらしい。疲れを知らない翼手の身とはいえ、ふかふかのベッドで横になるという行為がもたらす安らぎはある。ディーヴァは休眠中だったし、予定が合わないということで、兄弟同士の大きなイベントがなかったのがソロモンにとっては幸いした。
一言二言、言葉を交わしてから、カールは同じ部屋のソファに腰を降ろした。
カールはそんなソロモンを横目に見ながら、一瞬悲しげに目を伏せる。
ソロモンは知らずに、気持ち良さそうに目を閉じていた。
カールはソファから立ち上がると、真っ直ぐ、ソロモンが横になっているベッドへと歩を進めた。
カールが近づく気配にソロモンは目を開ける。
ソロモンが何かを言う前に、カールは無言でベッドに潜り込んだ。
驚くソロモンを無視して、カールはソロモンの背中に手を回した。
* * *
カールがソロモンのベッドに入り込む数時間前。
とある実験室。カールにとってそこは悪い意味で、馴染みの深い場所だった。己の身体が切り刻まれる、『実験室』。
真っ赤な夕日に染められた部屋の床は、どこまでが血の池なのか、どこまでがそうでないのか、わからなくなっていた。
『実験』を終え、カールは赤と黒しか存在しない部屋で一人、壁にもたれ掛かっていた。
長い髪が顔の半分を覆い隠している。
ずずず…と、背と壁が摩擦する音を立てながら、カールはその場に座り込む。脚を投げ出しながら、そういえば今日で年が暮れるんだったな、と、今更ながらに思い出す。
年が暮れて、年が明けて、年が暮れて、また明けて。
1年、2年、と時が過ぎていく。
それはただこの大地が、恵みの光をもたらす星の周りを、幾度回ったかというだけのことを表しているに過ぎない。そのどこを始点にして終点するかは、勝手に人間が決めたことだ。絶対的な意味はない。
だが、年が往ってしまうたびに、思う。
少しずつ、自分は過去から離れていく。
どんなに巨大な建造物も遠ざかればいつか見えなくなってしまうように、忘れたくない過去も永い時の中で消え去ってしまうのだろうか。
カールは部屋を染める赤と、普通の人間であれば目にしたくない光景を見ながら、思う。
身体を切り刻まれるたび、自分でないものと接合される度に、恐れるのは身体を犯す痛みではなくて、失っていく肉体と共に刻まれた過去を奪われてしまう事だ。
昔、ソロモンと共に幸せだけがあった時間。
抱きしめられた時の温もり、交わした熱と痛み、そして心地良さ。
『モルモット』としての生に嫌悪感がないわけではない。
だが、自分の一部が切り落とされて、異物と繋がれることで、過去が変形し変色するのではないかという恐怖感の方がそれに勝っていた。
* * *
ベッドに潜り込み、カールが抱いてほしい、というようにソロモンに縋り付けば、ソロモンは何も言わずにカールの身体をかき抱いた。
こうやってどうしようもない寂しさに任せて縋れば、ソロモンはいつだってカールの求めに応じていた。ソロモンの行動が哀れみの感情から来るものなのか、それ以外のものから来るものなのかはカールにはわからない。
年月の流れ、付け替えられていく身体。その両方が過去の変色を加速させていく。
ソロモンに抱かれながら、思う。
もう、かつての自分の身体であった部分は、殆どが異物へと付け替えられている。
それでも、こうして身体の奥にソロモンを感じる瞬間は、脳髄に残る快楽の記憶と一瞬にして結び付けられる。この時間だけ、自分は過去と繋がっていられる。
どこまでが、本当の身体なのだろう
どこまでが、本当の私の心なのだろう
どこまでが、本当の、私の記憶なのだろう
過去の記憶だけが、自分をなんとか保ってくれている。
それでもいつか、過去の記憶全てが朽ち果ててしまった時、自分は何者になるのだろう。
シュヴァリエになってから得たものが、ゼロだったわけではない。ただ、人であった時、自分は時と共に、『何処か』に進んでいた。真っ直ぐ前を見詰めて、全力で目的地を目指す。それがカールだった。
だが、人でなくなってから、自分は何処にも行けなくなってしまった。
『何処か』を目指そうと、カールは必死にもがいた。
『カールはいつも楽しそうですね。羨ましいです』
ソロモンにそう言われるたびに深く傷ついていく自分を隠す為に、仮面をつけて偽りの笑みを顔いっぱいに広げることで、自分で自分を辛い場所へと追い詰めてしまった。
行きたい場所がわからない。
湧き上がる気持ちも、欲望も、何もかもが、偽りかもしれない。
過去だけが自分を保ってくれるのに、その過去すら、ぐらついている。
情交の後、気付けば時計の短針が1をさしていて、いつの間にか年が明けていたことを知った。
進みたい。時と共に前へ。
でも。
でも。
どこへ?
終。
BGM キ/ミ/ガ/タ/メ
2008/01/04
戻る
PR