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1940年代に二人暮らししてた…っていう話を書いていたのですが、
その1シーンです。
(他のシーンのデータがとんだ)

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ホントのキモチ。



 1945年、10月中旬某国。
 ここ数年間、周囲の国は戦火の嵐が吹き荒れていたというのに、この国は国境付近でもなければ平和そのものだった。
 この国の一番大きな市街地の北方にあるだいぶさびれた区画に、その建物はあった。鉄筋コンクリート6階建の建物で、周囲の例外に漏れずだいぶ年期が入っている。午前3時をまわろうかという時刻で、どこも明かりをつけていない時間だったが、その建物の最上階の窓からは明かりが漏れていた。
 明かりの漏れている部屋は、小奇麗に整頓されていた。持ち主の性格がよく表れている。リビングが一つと、主要な部屋が二つ。一人で使っているため、一つは書斎、一つは寝室として使っている。
 明かりが点いているのは書斎だった。机と資料を置いておく棚以外は、ほとんど家具はない殺風景な部屋。
「まだ怒ってるんですか?カール」
「…………」
 警戒するように時折ソロモンの位置を確認しながら、カールは書斎で本を読んでいた。それ以上近づいたら許さん、と視線でソロモンを牽制している。ソロモンは大して気にせず、ダイニングルームから持ってきた椅子に座って、楽しそうにカールを見ている。
「カールが好きなワイン、買ってきたんですが、飲みませんか?…僕は一杯飲んだらすぐ寝ますけど」
「飲む」
 憮然とした表情を変えず、視線を本に向けたまま即答するカールにソロモンは、
「正直な人ですね」
 そう言って、ダイニング・ルームにグラスとワインを取りに行った。
『ねぇ、機嫌なおしてくださいよ。耳たぶを一回噛んだだけじゃないですか』
 ソロモンがカールの頭に話しかけてくる。
『私がお前の耳を噛んだら、お前は許すのか?』
『許すも何も、悦びますけど』

―――こいつに聞くのが間違ってた。

 カールはそう反省しながら、本を引き出しの一番上に入れた。
 読みかけの本だけはいつもこうしている。
 ダイニング・ルームから戻り、ソロモンがワインをグラスに注ぐのを、カールはぼんやりと見ていた。

 二人でそれぞれのグラスを持つ。
 一瞬、互いに目配せしてから、
「乾杯」
 と二人で言った。一人は嬉しそうに。一人はやはり憮然と。
「ところで…、こうやって二人で飲むのは久しぶりですね」
「40年代に入ってから飲んでいない」
「そうでしたか…?ここのところ忙しかったから、気づきませんでしたよ。そんなに経っていたとは」
「なら今は時間に敏感なはずだな。人をおちょくるしかやる事が無いようだからな」
 カールが昼仕事にでいてる間、現在無職であり、長兄の指示待ちのソロモンは完全な暇人だった。
「あなたと仲良くしたくて頑張ってるんですよ」
言いながら、ソロモンはカールのグラスにワインを注いでやる。
「険悪になりたくての間違いじゃないのか?顔を合わせる度に溝が深まっている気がするが」
「僕は毎日溝を埋めてるのに、カールが勝手に掘り下げてるんですよ」
「いつ埋まるか見ものだな。今では底も見えないが」
「見えないんですか?…きっとカールの目が相当悪いんですよ。そんなに深くありませんから」
 再びカールのグラスに注ぐソロモン。
「希望的観測の極みだな」
 芝居がかった声でカールがそう言うと、ソロモンは軽く身を乗り出して聞いた。
「じゃあ、どうすればカールは僕を好きになってくれるんですか?」
 カールはソロモンをしばらく無言で見つめてから、
「少なくともお前にできることは一つもない」
 そう答えた。
「それって…」
 乗り出した体を元の位置に戻すソロモン。
「カールはもう僕のことを好きだから、僕がすることはないっていうことですか?」
「…どこまで自分に都合のいい解釈をすれば気が済むんだ?」
 呆れ声で言いながら、カールにしては珍しく、ソロモンのグラスに注ごうとする。
「あ、僕はいいんですよカール。さっき『一杯飲んだら寝る』って言ったでしょう?」
「…そうだったな」
「じゃあ、そろそろ僕は先に寝てますね」
「一生起きてこなくていいぞ」
「カールが腕の中にいればそれもありえます」
 苦笑しながら立ち上がる。
「ありえな……」
「おやすみなさい」
 カールが言い終わるのを待たず、ソロモンはそう言うと書斎をでていった。


 ソロモンが行ってしまってから、カールはしばらく一人で飲んでいた。
 先程のソロモンとの会話を頭の中でリピートしながら飲んでいた為、
目が据わっている。
「…違う」
 誰に言うでもなくそう呟くカール。


 その十数分後。
 何本かボトルを空にしてしまってから、カールは書斎の窓を開けた。
 冷たい夜風が、カールの黒髪を揺らす。
『じゃあ、どうすればカールは僕を好きになってくれるんですか?』
『カールはもう僕のことを好きだから、僕がすることはないっていうことですか?』
 先程のソロモンの言葉が思い出される。
 軽く窓枠から身を乗り出すと、カールは、
「…正解だ、ソロモン。」
 と、小さく呟いた。



END




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2006/4/12
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